カーボンクレジットを購入する際、その「1トンのCO2削減・除去」という価値が、どれくらいの期間保証されるのかは極めて重要な問いである。10年か、100年か、それとも1000年以上か。
この「時間の長さ」と「確実性」を問い、カーボンクレジットの品質を測る上で最も重要な概念の一つが「永続性(Permanence)」である。本記事では、永続性の定義、その重要性、リスク管理の仕組み、そして国内外の最新動向について解説する(一文での定義は用語集ページ「永続性」も参照)。
永続性(Permanence)とは、カーボンクレジットの創出元となるプロジェクトによって、CO2がどれだけ長期にわたり、かつ確実に大気中から隔離され続けるかを示す度合いである。「耐久性、恒久性(Durability)」とほぼ同義で用いられる。
この対義語となる概念が「非永続性のリスク(Non-permanence Risk)」または「反転リスク(Reversal Risk)」である。これは、一度森林や土壌などに貯留された炭素が、火災や不適切な管理によって再び大気中に放出されてしまう危険性を指す。
永続性は、カーボンクレジットの環境的価値と経済的価値の両方を決定づける核心的な要素である。その重要性は主に以下の3点に集約される。
排出されるCO2の多くは、数百年以上にわたって大気中に留まり、地球温暖化に影響を与え続ける。その排出を相殺(オフセット)するためには、排出されたCO2が大気中に留まる期間と同等か、それ以上の期間、CO2を確実に隔離する必要がある。永続性の低いカーボンクレジットによるオフセットは、一時的な問題の先送りに過ぎず、気候変動の根本的な解決にはならない。
SBTi(Science Based Targets initiative)などの国際的な基準において、企業が「ネットゼロ」目標を達成するためには、削減しきれない残余排出量を中和する必要がある。この中和においては、永続性が極めて高い「耐久性のある炭素除去(Durable Carbon Removal)」由来のカーボンクレジットを用いることが求められる傾向が強まっている(詳細は後述の「国内外の動向」を参照)。
永続性は品質を測る最も重要な指標の一つである。一般的に、永続性が高く、反転リスクが低いカーボンクレジットほど、高品質で信頼できる資産と見なされ、その価値は高く評価される。
特に植林や森林保全といった自然由来のプロジェクトは、その性質上、永続性に関する固有のリスクを抱えている。
リスクの要因は大きく二つに分類される。
自然災害
森林火災、干ばつ、病害虫の大量発生などによる森林の消失。
人為的な要因
違法伐採、土地用途の変更、プロジェクト管理の不備、あるいは政情不安による保護政策の撤回など。
これらのリスクに対応するため、VerraやGold Standard、ACR、CARといった主要なボランタリーカーボンクレジット市場の認証機関は、「バッファープール」と呼ばれる共同保険のような制度を導入している。
具体的な仕組みは以下の通りである。
預託
自然由来のプロジェクトがクレジットを発行する際、認証機関は「AFOLU非永続性リスクツール」などの手法でプロジェクトごとの反転リスクを評価し、そのリスク評価に応じた一定割合のクレジットを市場で販売させず、共通の「バッファープール」に預託させる。預託率はプロジェクトのリスク評価によって変動するが、Gold Standardは一律20%、ACRもおおむね20%前後を目安とするなど、発行量の一定割合をリザーブとして積み立てる点は各認証機関で共通している。
補填
もし、あるプロジェクトで火災などによる炭素の再放出(反転)が発生した場合、認証機関はその損失分に相当するカーボンクレジットをバッファープールから取り崩し、永久に無効化(リタイア)する。
この仕組みにより、個別のプロジェクトで損失が発生しても、市場に流通している他のカーボンクレジットの価値と信頼性は守られる。国内のJ-クレジット制度にも類似の仕組みがあり、詳細は後述の「国内の動向」で紹介する。
永続性の期間は、CO2を除去・貯留する方法によって大きく異なる。
生物学的プロセスを利用するため、本質的に反転リスクを伴う。永続性は数十年から百年単位と見なされることが多く、前述のバッファープールのような厳格なリスク管理が不可欠である。
CO2を地層深部への圧入や、化学的に安定した構造(バイオ炭など)に固定する方法である。DACCSなどの地中圧入は物理的に安定しており反転リスクが極めて低く、数百年から数千年以上の永続性を持つとされる。バイオ炭も製造条件や土壌環境によって差はあるものの、数百年から千年規模の耐久性を持つと報告されている。これらが「Durable(耐久性のある)」と呼ばれる所以である。
2026年6月、SBTiは企業の脱炭素目標の指針となる「Corporate Net-Zero Standard」の第2版(V2.0)を確定・公表した。同基準では、削減しきれない残余排出量を除去由来のクレジットで中和する際、対象となる温室効果ガスの大気中滞留期間(永続性)に応じて除去の種類を対応させる「耐久性(durability)ベース」の考え方が採用されている。具体的には、化石燃料由来のCO2など長期間大気に留まるガスは、DACCSやBECCS、強化風化(ERW)など長期貯留が可能な除去(概ね1,000年規模の永続性を持つもの)で中和することが求められ、その適用比率は2035年の10%からネットゼロ目標年に向けて段階的に100%まで引き上げられる設計になっている。一方、メタンや一酸化二窒素など滞留期間が短いガスについては、12年〜120年程度の耐久性を持つ除去との対応で足りるとされている。
ボランタリークレジット市場の品質基準を策定するICVCMも、Core Carbon Principles(CCPs)の継続的改善プログラムの一環として、永続性に関するモニタリング期間や反転発生時の補填ルールの強化を検討しており、段階的にフレームワークへ反映していく方針を示している。
日本国内のJ-クレジット制度でも、森林管理プロジェクトを対象に非永続性リスクへの対応が制度化されている。森林管理プロジェクトが発行するクレジットの3%を、制度全体で共有する「バッファー管理口座」へ移転する仕組みが導入されており、収用など避けがたい土地転用や自然攪乱でプロジェクト実施者に責任がない場合はこの口座のクレジットが無効化される。一方、不適切な主伐など実施者に責任がある場合は、実施者自身がクレジットの取消・返納によって補填する。
永続性という基準を品質評価に組み込むことには、次のような意義がある。
一方で、次のような留意点(課題)もある。
こうした複数の基準を横断してプロジェクトやサプライヤーの品質を見極めるには専門的な情報収集が欠かせない。CDR PROのようなサプライヤー・クレジット品質評価サービスを活用し、永続性を含む複数軸で候補を比較する動きも広がっている。
永続性は、カーボンクレジットの価値と信頼性を時間軸で測るための極めて重要な品質基準である。
カーボン市場において、「何トンのCO2か」という量だけでなく、「その1トンは、どれだけ長く、どれだけ確実に隔離されるのか」という質の問いが、気候変動対策への誠実さを測るリトマス試験紙となっている。
When buying a carbon credit, one of the most critical questions is how long the underlying “one tonne of CO2 reduced or removed” actually stays out of the atmosphere — 10 years, 100 years, or over 1,000 years. This question of duration and certainty is captured by the concept of permanence, one of the most important measures of carbon credit quality.
Definition. Permanence refers to how long, and how reliably, CO2 removed or reduced by a crediting project stays sequestered from the atmosphere. It is used almost synonymously with “durability.” Its opposite is “non-permanence risk” (or “reversal risk”) — the danger that carbon stored in forests or soils is released back into the atmosphere through fire, mismanagement, or other disturbances.
Why it matters. Permanence underpins the credibility of offsetting: because emitted CO2 can remain in the atmosphere for centuries, offsetting it meaningfully requires removals that last at least as long. It is also increasingly required for corporate net-zero claims, and it is one of the key factors buyers use to judge — and price — credit quality.
Managing the risk. Nature-based projects (afforestation, soil carbon, etc.) carry inherent reversal risk from wildfires, pests, illegal logging, or policy reversals. Leading voluntary registries such as Verra, Gold Standard, ACR, and CAR address this through “buffer pools”: a risk-adjusted share of each project’s credits is withheld and pooled; if a reversal occurs, credits are cancelled from the pool instead of eroding the value of credits already on the market. Technology-based removals (DACCS, biochar) are far less exposed to reversal, offering permanence on the order of centuries to millennia.
Recent developments. In June 2026, SBTi finalized Version 2.0 of its Corporate Net-Zero Standard, introducing a durability-based approach that matches the type of removal required to the atmospheric lifetime of the greenhouse gas being neutralized (e.g., roughly 1,000-year storage for fossil CO2, phased in from 10% of long-lived emissions in 2035 to 100% at a company’s net-zero year). ICVCM is also reviewing stronger permanence-monitoring and compensation requirements under its Core Carbon Principles. In Japan, the J-Credit Scheme applies a similar logic domestically: 3% of credits issued by forest-management projects are transferred into a shared buffer account to cover reversals beyond the project operator’s control.
Bottom line. Permanence alone does not determine credit quality — it must be weighed alongside additionality, double-counting safeguards, and cost — but it remains a central “quality litmus test” for how seriously a carbon credit addresses climate change, not just how many tonnes it claims.