ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)は、先住民運営の非営利団体アーネムランド・ファイア・アベイトメントNT(ALFA NT)との間で、約15万トンのオーストラリア炭素クレジット単位(ACCU)を対象とする5年間の売買契約を締結した。NABが単一の売り手から調達するACCU取引としては過去最大規模となる。
ALFA NTは、北部準州アーネムランドで6件の火災管理プロジェクトを運営する伝統的所有者主導の団体である。今回のクレジットは、乾季初期に計画的な低強度の火入れを行い、季節後半に発生しやすい大規模で高排出な野火を未然に防ぐサバンナ火災管理(SFM)手法により創出される。契約期間は2026年から2031年までの5年間で、NABの残存排出量の一部をこの期間にわたってカバーする。
NABはこの契約により、年次のスポット市場での調達への依存を減らす。カーボン・コモディティ市場担当のクリスタ・ベイテンズ氏は、オーストラリアの炭素市場について「スポット市場の流動性が高まる一方、先渡・オプション市場もより活発になりつつある」と述べ、長期オフテイク契約が高品質ACCUへの安定したアクセスを確保する手段になるとの認識を示した。
この契約は、2023年のセーフガード・メカニズム改革、および2026年4月に導入された新たなサバンナ火災方法論という制度的な後押しを受けたものである。
業界分析によれば、先住民主導のSFMクレジットは一般的なACCUと比べて価格面で優位に取引される傾向があり、1トンあたりAUD45〜50(約5,000〜5,600円)程度、一般的なACCUのAUD37〜38(約4,100〜4,300円)に対してプレミアムが付くとされる。ただし、この価格差の妥当性については、需給要因と品質評価のどちらをどこまで反映しているのか、市場参加者の間でも見方が分かれる。
ALFA NTのチーフ・コマーシャル・オフィサーであるエイドリアン・エンライト氏は、クレジット販売による収益の全額が土地・文化管理と300人を超える先住民レンジャーの雇用に再投資されていると説明し、今回の契約を「長期的な供給の確実性と高いインテグリティを兼ね備えたモデル」と位置づけた。
先住民運営プロジェクトへの長期オフテイク契約は、オーストラリアのACCU市場ではここ数年で珍しくなくなりつつある。NABの案件は規模の大きさで目を引くが、スポット依存から先渡契約へという市場の移行自体は、既に進行していた流れの延長線上にあるとみるべきだろう。日本のGX-ETSやJ-クレジット制度でも、需要側が長期の供給確実性を求める局面はいずれ訪れる。オーストラリアの先渡・オプション市場の成熟過程は、その際の制度設計を検討するうえで参照点になる。