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【インタビュー】個人参加型のカーボンクレジット取引所「JCX」が描く市場設計と行動変容の経済圏

2026.05.18 更新 2026.06.17 読了 約6分
【インタビュー】個人参加型のカーボンクレジット取引所「JCX」が描く市場設計と行動変容の経済圏
出典:撮影:カーボンクレジット.jp

国内のカーボンクレジット市場は、長らく相対取引と入札を軸に発展してきた。価格は外から見えづらく、流動性は限定的、最低ロットも大きい。この三つの構造的な制約のもと、民間企業として板取引型のWEB(ウェブ)取引所を国内で初めて立ち上げたのが、日本GXグループ株式会社が運営する「日本カーボンクレジット取引所(JCX)」である。

JCXの特異な点は、法人のみならず個人が直接クレジットを売買できることにある。なぜ個人に市場を開放したのか。なぜプロ向けの設計に振り切ったのか。そして、取引所運営の先に同社は何を描いているのか。プロダクトの設計思想から中長期ビジョンまで、日本GXグループ代表・JCXの開発を主導した吉岡氏に聞いた。

「企業価値に反映されない非財務項目」という出発点

日本GXグループは、GHG(温室効果ガス)排出量の削減と資源循環を通じて、環境と経済の両立を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)専業の事業会社である。コンサルティング、情報開示支援、資源循環、そしてカーボンクレジット取引所と、環境価値の創出から流通までを横断的に手掛けている。

吉岡氏のキャリアの起点は、アクセンチュアでの大規模基幹システム開発であった。学生時代から金融分野で企業価値を研究してきた背景から、同氏は「日本企業は環境や社会への取り組みを多面的に進めているにもかかわらず、それが非財務項目として企業価値に十分反映されない」という問題意識を強く抱いていたという。

グローバル投資家の評価軸に沿わず、国内投資家の感覚にも合致しない。そのもどかしさが、カーボンクレジット市場という「環境への取り組みを経済価値へ変換するメカニズム」への関心につながった。

「自然や環境への対応を加速度的に促す仕組みを、今の段階なら自分たちで作れるのではないか」。そう考えた吉岡氏は、まず取引所の構築から事業を立ち上げた。基幹システム開発で培った経験を活かし、自ら設計を主導したという。「取引所」と名乗る以上、堅牢性とセキュリティは譲れないという信念が、JCXの土台にある。

法人と個人の比率は「100対1」取引所を支える個人投資家層

JCXの利用実態について、法人と個人の比率は概ね「100対1」、つまり取引のほぼ全量が個人によるものだという。

法人取引の比率が低い理由として「法人は相対取引が中心になる」と吉岡氏は説明する。コンサルティング業務のなかで法人から特定クレジットの調達依頼を受けることは多いが、法人が板取引で一気に大量注文を出せば価格が大きく動いてしまう。

流動性に配慮しつつ市場で調達するほうが合理的だ、という見立てだ。

一方、個人は1〜2トン単位で着実に買い進む。この「小口で継続的な買い」こそが、JCXの板を支えている。

個人ユーザーの購入動機は、大きく二つに分かれるという。

第一は、自らの活動を相殺したい、あるいは環境貢献事業者に資金を直接流したいという慈善的・社会的なモチベーション。

第二は、環境規制の強化とともにクレジット価格が上昇すると見込む投資的なモチベーションである。

JCXのプロダクト画面

特に注目すべきは、後者の戦略性についての吉岡氏の解釈だ。

同氏はカーボンクレジットを「リスクヘッジ商品」として位置づけ直す。「環境規制が強まれば事業会社の株価には下押し圧力がかかる一方、クレジット価格は逆に上がる。逆もまた然りで、規制が緩めば事業会社の株価は上昇するがクレジット価格は下がる」。事業会社の株式とクレジットを組み合わせれば、規制の方向性に対する両建てのポジションを構築できる。

投資家戦略としても、事業会社の財務戦略としても、ポートフォリオに組み込む合理性があるという主張である。

「J-クレジット限定」の品質哲学とプロ向けUI

JCXが現在扱うクレジットは、J-クレジットに限定されている。社内ではボランタリークレジットの取扱いも議論されたが、「個人を巻き込む以上、価格変動や品質に問題が生じた際に取引所として保証できない商品は置けない」と判断した。

UI(ユーザーインターフェース)設計の思想も特徴的だ。

JCXは証券会社のトレーディングアプリに近い構成で作られており、いわばプロ向けの設計である。「カーボンクレジットは株式市場よりボラティリティが大きい。金融リテラシーがない方が一日で数十パーセント動くような値動きを目にすれば、ヒステリックになりかねない」。あえて初心者向けに振らず、コモディティに手を出せる金融リテラシー層を対象に絞る判断は、ユーザー保護の観点からの戦略的選択である。

もっとも、プロ向けの取引所だけで個人にクレジット文化が広がるわけではない。同社は並行して、より小口に分割した「細分化クレジット」を環境貢献アクションへの報酬として配るスキームの構築を検討しているという。

投資家層を対象とする取引所と、生活者層を対象とするインセンティブ設計。この二段構えが、JCXの全体戦略を形づくっている。

行動変容の経済圏、一次産業・地域から日本のGXを動かす

インタビュー全体を通じて、「カーボンクレジット単体のビジネスは成立しない」と考えているという。

たとえば、稲作における中干し期間延長の方法論で農家に還流する収益は、決して大きくない。だからこそ、農家のDX(デジタル化)、栽培量の引き上げ、販路の高付加価値化など、本業の競争力強化と組み合わせて初めて持続する取り組みになる。「もともと十分に収益化できる事業ならクレジットは要らない。クレジットはその活動を継続・拡大させる補助的な位置づけだ」と吉岡氏は語る。

将来ビジョン

吉岡氏が描く中長期ビジョンの中心にあるのは、「個人の行動変容」である。

エコアクションに対してインセンティブを付与し、そのインセンティブでしか得られないサービスや体験を設計することで、エコアクション自体を「かっこいい憧れの対象」へと昇格させる。

AI(人工知能)の進展で都市のホワイトカラー労働が縮小し、人々が地方へと再分配されるなかで、農業・漁業・林業や耕作放棄地の再生といった一次産業が新しい生き方の選択肢になっていく。その未来観と、行動変容のインセンティブ設計とを地続きに捉えているのが特徴的だ。

「東京にいようが地方にいようが、同じタイミングで情報が届くのがウェブメディアの強みだ。限られた資源のなかで独創的な取り組みを進める地方の事業者と、大企業を結ぶ実証の仕組みを広げていきたい」と締めくくった。

JCXは、単なる「日本初の個人向けカーボンクレジット取引所」ではない。

クレジットを起点に、企業・個人・地域・一次産業を貫く環境価値の流通インフラを設計しようとしている。

行動変容と地域経済に接続する。

この全体設計こそが、JCXのオリジナリティの源泉である。

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。