ブラジル政府は2025年12月5日付政令第12,768号により、SBCE(ブラジル温室効果ガス排出取引制度)の運営中核機関である常設技術諮問委員会(CTCP)を制度化した。
同政令は12月8日に官報掲載されており、同日に公布された複数の政令と合わせて、金融・方法論・MRVの3作業部会の設計枠組みも確定した。
CTCP構成では連邦政府機関、州・連邦区代表、規制対象運営者団体、農林・土地利用団体、環境市場参加金融機関、学界、市民社会の各代表が議決権を持つ。民間カーボンクレジット開発者団体および自然由来ソリューション開発者団体は構成枠に含まれず、議決権を持たない。
CTCPはSBCE運営の中核諮問機関として、財務省を議長機関として設置される。所掌は、SBCE改善の検討、排出削減・除去認証(CRVE)方法論の認定・抹消基準、国家配分計画策定基準、SBCE収入活用年次計画の策定支援等である。
構成は、財務省を含む連邦政府14機関、州・連邦区代表5名、学界・市民社会各1名、規制対象運営者団体(エネルギー、産業、都市モビリティ、廃棄物、運輸の各セクター)、農林・土地利用団体、環境市場参加金融機関の各代表からなる。任期は2年、会合は隔月、定足数は絶対多数、議決は単純多数とされる。
ブラジル財務省炭素市場担当事務次長のジョゼ・ペドロ・バストス・ネベス(José Pedro Bastos Neves)はCTCPについて、社会的公正と効率性を両立するブラジル独自の規制市場形成における中心的機構と位置付けている。
CTCPの下には、規制対象セクターの代表団体で構成される規制対象事項諮問室(Câmara de Assuntos Regulatórios)も併設される。同諮問室はSBCE規制対象活動・排出源の定義、国家配分計画案、義務化される年間排出閾値等の規範策定に先立つ正式諮問先となる。
CTCPの下に設置される3作業部会は、それぞれ次の領域を担う。金融作業部会は、炭素資産の金融商品としての取引構造、および排出枠オークション形式の運営を所掌する。方法論作業部会は、カーボンクレジット選定基準、REDD+枠組み適格性、オフセット統合ルールの策定を担う。MRV作業部会は、年間2万5,000トンCO2eを超える高排出産業施設の報告ベースライン構築を担う。
作業部会は政令第6条により、設置期間は最長1年(1年延長可)、同時並行は最大4部会までと上限が設定されている。構成・所掌・終了期限はCTCP議長の決定により定められる。
これら作業部会の起案がCTCPに対する政策勧告の基礎となるため、SBCE制度設計の実務的中枢を構成する。
注目すべきは、CTCP構成における民間部門の取り扱いである。規制対象運営者(operadores)の代表団体は議決権を持つ一方、カーボンクレジット開発者団体、コンサルタント、自然由来ソリューション開発者団体は構成枠に含まれない。これら民間関係者の参加は、CTCP議長の招待に基づくオブザーバー出席に限られる。
この設計は、規制対象事業者(コンプライアンス義務を負う側)と方法論供給者(オフセット・カーボンクレジット供給側)を制度的に区別したものといえる。前者は政策影響を直接受ける当事者として議決権を付与され、後者は政策設計の対象として位置付けられる。
加えて、第3条第5項に基づき、規制対象運営者団体・農林団体・環境市場参加金融機関の代表は財務省主催の公募選定プロセスを経て選ばれる。応募要件には全国規模性、業界代表性、SBCE関連事項に関する顕著な知見が明示されている。
今回の制度設計は、ブラジル発カーボンクレジットの国際移転、すなわちパリ協定6条に基づくITMOの輸出規律にも直接の含意を持つ。方法論作業部会の構成上、REDD+を含むカーボンクレジット方法論の適格性判断は政府主導で行われる。
ブラジルはCOP30の議長国であり、同国がホスト国としてどの方法論を国際移転対象として承認するかは、ボランタリーカーボンクレジット市場と規制市場の接続点を形成する。ホスト国の主権を強く反映した制度設計は、二重計上回避と相応の調整(コリ調整)の規律確保に資する。
一方、開発者にとっては、自国で既に発行されたボランタリーカーボンクレジットが将来的にSBCE適格となるか、あるいはITMOとして輸出可能となるかについて、規制不確実性が当面残ることを意味する。
民間部門の参加権制限については、市場流動性とイノベーションの観点から異論も呈されている。方法論策定における開発者の知見が反映されにくくなれば、現場の技術進展と政策の乖離が拡大する可能性がある。
また、議決権を持つセクター団体の選定が公募プロセスに依存することから、選定基準と運営透明性が今後の論点となる。財務省は委員指定後60日以内に内部規程を策定する義務を負っており、ここでオブザーバー招待の運用ルールがどこまで開かれた設計となるかが、実質的な民間関与の度合いを左右する。
今回の制度設計は、ホスト国主権の正当な行使として評価できる。ブラジルがクレジット品質の制度的担保と社会的公正の両立を国家責任で引き受ける姿勢は、ホスト国側からの方法論承認・排出枠配分・収入活用の一貫した規律設計を可能にする点で、制度成熟の方向性として妥当である。
開発者を構成員から外したことは、規制対象事業者と方法論供給者の利益相反を制度的に切り分けたものとして読める。クレジット方法論の決定権を供給側に渡せば、追加性・永続性の判断にバイアスが入りうる。CTCPに開発者代表を含めない設計は、この構造的リスクを回避する選択である。ITMO輸出規律も同じ論理で説明できる。ブラジル発カーボンクレジットの国際移転を国家が一元的に統制することは、ホスト国の気候目標達成への二重計上リスクを排除し、コリ調整の規律を確保する条件となる。COP30議長国としてのブラジルが、規律ある国際市場の前提を自国制度で示した意味は小さくない。
参考:https://www.in.gov.br/web/dou/-/decreto-n-12.768-de-5-de-dezembro-de-2025-673669867