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ブラジル財務省、コンプライアンスカーボン市場のセクター別カバレッジ案を公表 2027年から段階導入

2026.05.25 読了 約4分
ブラジル財務省、コンプライアンスカーボン市場のセクター別カバレッジ案を公表 2027年から段階導入
出典:<a href="https://www.gov.br/fazenda/pt-br/assuntos/noticias/2026/maio/ministerio-da-fazenda-apresenta-proposta-preliminar-de-cobertura-setorial-do-mercado-regulado-de-carbono" target="_blank"></a>

ブラジル財務省炭素市場特別事務局(SEMC)は2026年5月19日、ブラジル排出量取引制度(SBCE)の常設技術諮問委員会(CTCP)に対し、コンプライアンスカーボン市場のセクター別カバレッジ案を提示した。2024年に成立した法律15,042号に基づき構築される中南米最大の規制市場が、運用フェーズに向けて具体的な対象範囲を提示する段階に入った。

MRV義務は3段階で導入される。第1段階となる2027年には、紙パルプ、鉄鋼、セメント、一次アルミニウム、石油・ガス(探鉱・生産・精製)、航空の各セクターが対象となる。第2段階の2029年には、鉱業、リサイクルアルミニウム、電力、ガラス、食品・飲料、化学、セラミック、廃棄物が追加され、第3段階の2031年には道路輸送、海運、鉄道輸送の輸送セクターが組み込まれる。

各セクターは4年間の移行プロセスを経る設計である。1年目はモニタリング計画の策定、2-3年目はMRV運用と排出量報告、4年目は国家割当計画の策定にあてられる。この期間中は報告義務のみが課され、費用負担・削減義務は発生しない。

法律15,042号は、初回の国家割当計画において対象事業者へ排出枠を無償配分することを明定している。報告義務は年間10,000トンCO2e超、遵守義務は年間25,000トンCO2e超の事業者を対象とし、ブラジル企業全体の0.1%未満に限定される。SEMCは収入の75%を対象企業の脱炭素移行支援に還元する方針を示している。

クリスチナ・レイス(Cristina Reis)SEMC長官は、技術的基準とセクター対話、ブラジルの生産構造を踏まえた段階的・予測可能で証拠に基づく移行を目標として掲げた。今後はCTCP委員からの意見受領を経て、2026年7月にパブリックコンサルテーションが実施され、年内に最終版が公表される予定である。

制度設計の構造的論点

本案で最も注目すべきは、ブラジル最大の排出源である農業セクターがキャップアンドトレード対象から除外されている点である。土地利用変化と畜産を含む農業部門はブラジルの温室効果ガス排出の中核を占めるが、今回の3段階スケジュールには農業の組み入れが明示されていない。

無償配分という設計選択も論点を残す。EU ETSが第1フェーズで採用した無償配分は事業者の制度受容を促進した一方、価格シグナルの希薄化とウィンドフォール利益を生んだことが先行研究で指摘されている。SBCEが同様の経路をたどるか、それとも有償化への移行軌道を早期に示すかは、初回の国家割当計画における配分方式の詳細に左右される論点である。

オフセット(補償)の上限設計は今後の規制パラメータ策定における焦点として残されている。SBCEがどの範囲のカーボンクレジットを遵守用途で認めるか、パリ協定6条のITMOやJCMとの整合性をどう確保するかは、ブラジル国内のボランタリーカーボンクレジット市場の規模と性質を左右する。

一方で、4年間の移行期間を設けて報告義務先行型で導入する設計は、データ蓄積と制度能力の構築を優先する漸進主義として一定の合理性を持つ。EU ETSが第1フェーズで直面したベースラインデータの不整合や過剰割当の問題を回避するための制度学習として位置づけられる。

編集部の視点

ブラジルの規制市場は、中南米最大の経済規模を持つ国における初の包括的なキャップアンドトレード制度として、グローバルな炭素市場地図に新たな極を形成する事例である。EU ETS、英国ETS、中国全国ETS、韓国ETS、GX-ETS等と並ぶ規制市場の系譜に、農業大国・資源輸出国としての独自構造を持ち込む点で、制度設計の比較研究上も意義は大きい。

ただし、本案の段階的導入スケジュールと農業セクターの除外は、ブラジルの排出構造に対する制度カバレッジの実効性を構造的に制約する。報告義務先行・無償配分先行という設計は産業界の制度受容を優先する選択であり、初期の価格シグナルと削減インセンティブの強度を抑制する。SBCEが排出削減装置として機能するか、それとも産業競争力配慮の枠組みにとどまるかは、第二期以降の有償化移行と農業セクターの取り扱い決定に依存する。

国際的に見れば、SBCEの始動は本来、EU CBAMをはじめとする国境炭素調整との接続点を形成する制度資産となるはずである。鉄鋼、アルミニウム、セメント、紙パルプといったCBAM対象品目を第1段階に含めた点は、輸出競争力の観点から合理的な選択である。

論点となるのは、無償配分下のSBCE炭素価格がCBAM想定価格と乖離した場合の国境調整費用の発生可能性であり、ブラジル産業の対欧輸出競争力を左右する制度間整合性の問題として残る。

参考:https://www.gov.br/fazenda/pt-br/assuntos/noticias/2026/maio/ministerio-da-fazenda-apresenta-proposta-preliminar-de-cobertura-setorial-do-mercado-regulado-de-carbono

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。