建設・エンジニアリング大手のフルーア(Fluor)が、2026年5月にアムステルダムで第2回「Energise the Future」イベントを開催した。前回が水素および水素誘導体に重点を置いたのに対し、今回はCCU(炭素回収・利用)と持続可能な航空燃料(SAF)にまで対象を拡張した招待制フォーラムである。プロジェクト開発者、技術プロバイダー、金融機関、政策当局、EPC企業、規制当局、投資家までを集めるエコシステム全体型の場として位置づけられた。
注目すべきは、議論の中核が「技術」ではなく「最終投資決定(FID)に至るまでの障害」に移っていた点である。
フルーアの事業開発戦略部門責任者を務めるアレハンドロ・エスカローナ(Alejandro Escalona)は、開幕の挨拶でFIDに影響を与えるすべての主体を意図的に一堂に集めたと述べた。低炭素プロジェクトの商業化が、もはや技術成熟度の問題ではなくなっていることを示している。
ただし、本イベントは産業界が直面する課題を整理する場としての性格が濃く、CCU・SAF・水素のいずれも大半のプロジェクトは依然としてパイロット段階の延長線上にある。革新的な発表が並ぶ場というより、商業化の障壁を構造的に確認するフォーラムであったといえる。
「バンカビリティ(資金調達性、bankability)」が一日を通じて繰り返し議論された。プロジェクト開発者、金融機関、EPC契約者、規制当局のあいだで協働関係が成立するかどうかが、FID判定の鍵を握るという認識が共有された。
特に強調されたのが、長期オフテイク契約の重要性である。SAFの場合、航空会社は脱炭素ニーズへの対応として原則的にSAFを支持しているものの、従来型ジェット燃料を大きく上回る価格水準での長期契約には慎重姿勢を崩していない。フルーアの技術ディレクター兼CCUS分野エキスパートのスニル・ヴィアス(Sunil Vyas)は、SAFには需要が存在するものの、政策が市場を後押しする必要があると指摘した。
リスク分担の構造設計も繰り返し論点となった。各プロジェクトは固有の事情を抱えており、画一的なファイナンス手法では成立し得ない。現実的な工程表と長期オフテイク契約が組み合わさることで初めて、金融機関の関与が引き出されるという認識である。
ランザテック(LanzaTech)のEMEA・米州マネージングディレクターを務めるジム・ウッジャー(Jim Woodger)は、産業廃ガスをエタノール経由でSAFに変換する経路を提示。ノルウェー、英国、ベルギーでのプロジェクトが原料供給契約、エンジニアリング検討、許認可手続き、航空会社とのオフテイク協議まで進捗していることを紹介した。技術そのものの議論よりも、こうした商業化要件の整備状況の報告に時間が割かれた点が、本イベントの性格を象徴している。
スタートアップピッチコンペには17社が応募し、5社がファイナリストとして登壇した。
優勝企業に提供されるのは、フルーアが今回新たに導入した「FEL-Ω℠」サービスへのアクセス権である。プロジェクトサイトが未確定の早期段階で商業規模設備の概算コスト推定を提供する仕組みで、設備投資リスクを早期に可視化することを目的としている。
ファイナリストには、捕集したCO2を合成ガス経由でSAFに変換するティーエヌオー(TNO)、CO2を合成繊維等に転換するフェアブリックス(Fairbrics)、低濃度CO2回収プラットフォームを掲げるヤマカーボン(Yama Carbon)、オックスフォード大学発でCO2を燃料・化学品に転換するオックスCCU(OXCCU)が並んだ。
優勝はディオキシクル(Dioxycle)で、CO2をエチレンに変換する電解技術を披露した。エチレンは化学産業の基幹原料であり、CCUの収益化シナリオとしては相対的に説得力を持つ用途である。業界団体CO2バリュー・ヨーロッパ(CO2 Value Europe)の政策ディレクターを務めるテュディ・ベルニエ(Tudy Bernier)は、これらスタートアップが将来像を提示する役割を担っているとコメントした。
本イベントの示唆は、CCU・SAF・水素のいずれの分野でも、商業化の制約は技術そのものではなく金融・契約・政策の交差点にあるという業界の現在地である。
日系企業にとっての示唆は、SAFオフテイク需要の主体としての航空業界、CCU技術の出資先としての化学・素材産業、産業立地国としての政府の役割、それぞれが個別最適ではなく三位一体で動かなければプロジェクトは成立しないという冷徹な現実である。
GX-ETS下での産業脱炭素経路を設計する際にも、技術選択そのものよりも、オフテイク・リスク分担・政策確実性をどう束ねるかの設計能力が問われる局面に入っている。