2026年3月、カーボンリムーバル専門のポートフォリオ運用会社クライメファイ(ClimeFi)は、欧州委員会が公認するEU炭素除去・炭素農業規則(CRCF)に準拠した炭素除去ユニットとして初めて公表された取引を構造化した。
バイヤーズ・コレクティブ(共同購買連合)にはナスダック(Nasdaq)とアデン(Adyen)が参加し、ストックホルム・エクセルジ(Stockholm Exergi)が運営するベックス・ストックホルム(Beccs Stockholm)のバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)プロジェクト由来のCDRクレジットを取得する。
EU炭素除去・炭素農業規則(CRCF)は、欧州連合が主導する炭素除去(CDR)の認証制度であり、永続的な炭素除去に特化した世界初の自発的基準として位置づけられる。欧州委員会は2026年2月、同規則下における最初の方法論群を採択し、CRCFの正式な商業化に向けた基盤を確立した。同フレームワークは、企業の自発的な気候対策をEU排出量取引制度(EU ETS)をはじめとする規制制度と将来的に統合する橋渡し役として設計されている。
クライメファイはデューデリジェンス、契約、プロジェクト監視を集中管理するバイヤーズ・コレクティブを組成した。規模を問わない企業が標準化・競争的な条件で高品質なBECCS由来の炭素除去(CDR)ユニットへアクセスできる仕組みを構築したことが、今回の取引の核心である。
クライメファイのCEO兼共同創業者パオロ・ピファレッティ(Paolo Piffaretti)は次のように述べた。「昨年、炭素除去市場でパリ協定6条2項に基づく国際移転対応クレジット(ITMO)の最初の移転を構造化したのに続き、CRCFにおいても初の公表取引を取りまとめられたことを誇りに思う。今後もCRCF市場の最前線に立ち続けたい」。
炭素除去ユニットの供給源となるベックス・ストックホルムは、ストックホルム・エクセルジが運営するBECCSプロジェクトであり、再生可能熱・電力の高効率生産と永続的な炭素除去を組み合わせた設計が評価され、EUイノベーション基金から財政支援を受けてきた。
ストックホルム・エクセルジCEOのアンダース・エーゲルルード(Anders Egelrud)は「欧州の企業バイヤーがベックス・ストックホルムとCRCFフレームワークへの信頼を示した取り組みだ。永続的な炭素除去(CDR)プロジェクトとして最初にCRCFユニットを発行するプロジェクトのひとつになると確信している」とコメントした。
アデンのグローバル・サステナビリティ責任者エラ・ダグラス(Ella Douglas)は「このプロジェクトはボランタリーカーボンクレジット市場における触媒的なインパクトを支援し、欧州委員会との協働による市場インフラ整備にも貢献するものだ」と述べた。
今回の取引は、CRCFを政策フレームワークから実際の商業取引へと転換させる重要なマイルストーンとして評価される。CRCFはEU ETSとの統合や企業ネットゼロ基準の進化も見据えた制度設計を持ち、追加性・永続性を担保した技術由来の炭素除去(CDR)ユニットが将来的にコンプライアンス目的でも活用される道筋を示している。BECCS技術を軸とした欧州のCDR市場は今後、本格的な拡大局面を迎えるとみられる。
EUのCRCF体制が商業段階に入ったことは、日本企業の炭素除去(CDR)調達戦略にも直接的な含意を持つ。SBTiの要件高度化やGX-ETSの制度整備が進む中、永続性の高いCDRカーボンクレジットの確保は単なる先行投資ではなく、将来の規制対応と開示要件への備えとなりつつある。BECCS等の技術由来CDRを含む調達ポートフォリオの構築と、二国間クレジット制度(JCM)等との整合性の検討を今から進めることが、国際的な気候情報開示において競争優位を生む鍵となるだろう。