日本郵船と北海道電力は、北海道苫小牧市を拠点とする船上炭素回収・貯留(OCCS:Onboard Carbon Capture and Storage)の実証プロジェクトに向けた共同研究の覚書(MoU)を締結した。
両社は2028年度までの3カ年にわたり、日本郵船が所有し北海道電力向けに運航される石炭船「ピリカモシリ」への実証設備の設計・運用、回収したCO2の陸揚げ手法、再利用・貯留を含む下流工程までを検討する。
脱炭素化の選択肢が限られる国際海運分野において、船舶排ガスからCO2を直接回収・液化・貯蔵する技術は、IMO(国際海事機関)の規制圧力が強まる中で現実解の一つとして注目度を高めている。
国際海運は世界のCO2排出量の約3%を占めるとされ、長距離・長期運航・代替燃料インフラの未整備という三重の制約から、ハード・トゥ・アベイト(脱炭素困難)セクターの代表格に位置づけられてきた。アンモニア・水素・メタノールといった代替燃料の社会実装には10年単位の時間軸を要する一方、既存船隊の運航期間中にも排出削減を進める必要がある。OCCSは既存の重油船・石炭船にレトロフィット可能なブリッジ技術として位置づけられ、代替燃料移行までの過渡期を埋める役割が期待されている。
技術的には、船舶の排ガスからアミン吸収法等によりCO2を分離回収し、液化して船上タンクに保管、寄港時に陸揚げするスキームが主流である。課題は、設置スペース、所要エネルギー、回収効率、そして陸揚げ後の輸送・貯留・利用までを含めたバリューチェーン全体の経済性確保にある。
苫小牧は、日本CCS調査が2012年度から2018年度にかけて実施した大規模CCS実証試験の舞台であり、累計約30万トンのCO2を地中圧入した実績を持つ。現時点で日本国内において最も実証経験が蓄積された炭素貯留拠点であり、苫小牧港の工業集積、CCS適地の地質特性、そしてCCUSバリューチェーン構築に取り組む北海道電力の既存知見を一体的に活用できる立地である。
OCCSの社会実装において最大のボトルネックは、回収したCO2を「いかに陸揚げし、輸送し、貯留・利用するか」というダウンストリーム設計にある。日本郵船と北海道電力の連携は、海上での回収側(船社の知見)と陸上での処理・貯留側(電力会社の知見)を縦断的に統合する狙いを持ち、単一企業では完結しない統合型炭素管理バリューチェーンの先行事例として位置づけられる。
3カ年の共同研究では、実証設備の設計・運用、回収CO2の最適な陸揚げ手法、回収CO2の利用可能性、を主要テーマとする。実証対象となる「ピリカモシリ」は、アイヌ語で「美しい大地の船」を意味し、北海道沿岸を主たる運航海域とする石炭船である。船種特性上、排ガス量が大きく、寄港地が苫小牧近傍に集中することが、OCCS実証の対象船として適合する条件を備えている。
IMOは2023年に「2050年頃にネットゼロ」を目指す改訂GHG戦略を採択し、2025年4月のMEPC(海洋環境保護委員会)83会合では、燃料のGHG強度(GFI:Greenhouse Gas Fuel Intensity)規制を含む「IMOネットゼロ・フレームワーク」が採択された。
2027年からの段階的施行が予定されており、規制適合には燃料転換だけでなく、OCCSのような船上排出削減技術の導入が事業者の現実的選択肢として浮上する可能性が高い。EU ETS海運セクター(2024年から段階的拡大)においても、域内寄港時の排出責任が課される構造となっており、域外含むサプライチェーン全体での排出管理が問われる局面に入っている。
ただし現時点で、OCCSによる回収量がIMO制度・CORSIA・EU ETS等の枠組みでどのようにクレジットされるか、方法論は未確立である。