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DAC(直接空気回収)とは?詳しくてわかりやすい解説|What Is Direct Air Capture?

2025.01.01 更新 2026.07.04 読了 約11分
DAC(直接空気回収)とは?詳しくてわかりやすい解説|What Is Direct Air Capture?

気候変動対策は、現在の二酸化炭素(CO2)排出量を「削減(Reduce)」する段階から、過去に排出したCO2を大気中から積極的に「除去(Remove)」する段階へと移行している。この除去技術の究極の切り札として期待されるのが、「DAC(Direct Air Capture)」、すなわち「直接空気回収」である。

DACは、特定の排出源からではなく、どこにでもある「空気」そのものから、薄く広がったCO2を直接回収する革新的な炭素除去(カーボンリムーバル、CDR)技術だ。

本記事では、このDACを「国際開発と気候変動ファイナンス」の視点から深く分析する。DACがいかにして気候変動対策における「最後の砦」となり、その高い信頼性が新たな気候変動ファイナンスを動員しているのか。そして、この最先端技術が、将来的に途上国の開発機会や公正な移行にどのような影響を与えうるのか。その壮大なポテンシャルと巨大な課題を、包括的に解説する。

一文で概要だけを知りたい方は、超要約版の「DAC」も参照してほしい。

DACとは

DACとは、「大気中からCO2を直接分離・回収する技術」のことである。いわば「空気のための巨大な浄化装置」のようなものだ。

発電所や工場の煙突など、高濃度で排出されるCO2を回収するCCS(炭素回収・貯留)とは根本的に異なる。大気中のCO2濃度は0.04%強(2025年時点で420〜430ppm程度まで上昇)と非常に薄いため、DACには、その中からCO2だけを選択的に、かつ効率的に集めるための高度な化学技術が必要となる。

回収されたCO2は、地中深くに貯留され(この場合DACCSと呼ばれる)、大気中から永久に隔離されるか、CCU技術と組み合わせて有効活用(DACCU)される。

気候目標達成に不可欠な除去技術

IPCCの報告書は、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるためには、排出削減を最大限に進めた上で、さらに数十億トン規模のCO2を大気中から除去(ネガティブ・エミッション)する必要があると結論付けている。DACは、この不可避な除去を実現するための、最も確実で信頼性の高い選択肢の一つだ。

その役割は主に以下の二つである。

ネットゼロの達成

航空や重工業など、どうしても排出をゼロにできない部門の「残余排出」を相殺し、ネットゼロの達成を支える。

気候の修復

もし気温上昇が1.5℃の目標を超えてしまった(オーバーシュートした)場合に、大気中のCO2を減らして、気候をより安全な状態に戻す。

仕組みや具体例

DACの技術は、主に以下の2つのアプローチで開発が進められている。

固体吸着法(Solid DAC

CO2とのみ選択的に結合する特殊な固体吸着材(フィルター)に大量の空気を通過させてCO2を捕捉する。その後、フィルターを加熱(約80〜100℃)することで、純粋なCO2を分離・回収する技術である。スイスのクライムワークス(Climeworks)などが代表的な事例だ。

液体吸収法(Liquid DAC

CO2を吸収しやすい水酸化カリウムなどのアルカリ性液体に空気を通し、CO2を化学的に吸収させる。その後、いくつかの化学プロセスを経て、高温(約900℃)で加熱することでCO2を分離・回収する技術である。カナダのカーボンエンジニアリング(Carbon Engineering)(2023年にOccidental Petroleumが買収完了)などが代表される。

貯留プロセス(DACCS

回収されたCO2は、CCSと同様に、パイプラインなどで輸送され、地下1000メートル以上の深部にある帯水層や枯渇した石油・ガス田に圧入され、数千年以上にわたって安定的に貯留される。

事例:Climeworksの「マンモス」プラント

アイスランドにあるClimeworksの「マンモス」プラント(2024年5月に稼働開始)は、世界最大規模のDACプラントである。アイスランドの豊富な地熱エネルギーを利用してプラントを稼働させ、フル稼働時には年間最大3万6000トンのCO2を大気から回収する設計だ。回収したCO2は、現地のパートナー企業によって地下の玄武岩層に注入され、数年で鉱物化(石化)することで、漏洩リスクが極めて低い、非常に永続性の高い貯留を実現している。

国内外の動向

海外の動向

米国では、Occidental Petroleum傘下の1PointFiveがテキサス州で大型DACプラント「STRATOS」の稼働準備を進めており、2024年7月にはMicrosoftが同社と6年間で50万トンのDACクレジットを購入する契約を締結するなど、大手企業による長期購入契約(オフテイク)が広がりを見せている。JPMorgan Chaseも同社から5万トン規模のクレジットを購入する契約を結ぶなど、DACクレジットの需要は着実に拡大している。

国内の動向

日本国内でも取り組みが本格化しつつある。経済産業省は2024年からDACの導入拡大に向けたロードマップの検討を開始しており、川崎重工業は独自開発の固体吸着材を用いたDAC装置の実証を進めている。名古屋大学発のスタートアップSyncMOFなどもMOF(金属有機構造体)吸着材を用いた小型DAC装置の開発を進めており、2025年の大阪・関西万博会場では、日本ガイシ製のセラミック基材を採用したDAC実証装置が展示されるなど、社会実装に向けた機運が高まっている。ただし、国内の取り組みは総じてベンチ・ラボスケールの実証段階にとどまっており、海外の大規模プロジェクトへの参入や技術輸出が当面の戦略として検討されている。

メリットと課題

DACは、他のいかなる気候変動対策とも異なる、ユニークな利点と、巨大な課題を併せ持っている。

メリット

場所を選ばない
バイオマスを必要とするBECCSなどと異なり、基本的にはどこにでも設置可能である(ただし、再生可能エネルギーと貯留サイトへのアクセスは重要)。

高い信頼性と測定容易性
除去したCO2の量を正確に測定・検証できるため、クレジットとしての信頼性(Integrity)が非常に高い。こうした測定可能性の高さは、購入者がクレジットの品質を比較検討するうえでも重要な判断材料となる。サプライヤーやクレジットの品質を横断的に見極めたい場合は、CDR PROのような専門プラットフォームの活用も一案だ。

土地利用効率
同じ量のCO2を除去するために必要な土地面積が、植林に比べて格段に小さい。

課題

極めて高いコスト
現在の除去コストは1トンあたり数百ドルから、大規模稼働中の施設では1,000ドルを超える水準にあり、他のどの緩和策よりも高価だ。スイス・ETHチューリッヒなどの研究機関の試算では、技術革新と規模拡大が進めば2050年ごろには1トンあたり230〜540ドル程度まで低下する可能性があるとされる。

莫大なエネルギー消費
大量のクリーンな熱と電力が必要不可欠だ。DACの大規模な展開は、再生可能エネルギーの供給拡大が絶対条件となる。

モラルハザード
「将来、DACで回収すればよい」という考えが、現在の排出削減努力を遅らせる「言い訳」に使われるリスクがある。

まとめと今後の展望

DAC(直接空気回収)は、気候変動との長期的な闘いにおける、人類の最も強力なツールの一つであるが、それは万能薬ではなく、莫大なコストとエネルギーを必要とする「最後の切り札」である。

要点

  • DACは、大気中から直接CO2を回収する「炭素除去(ネガティブ・エミッション)」技術である。
  • ネットゼロ達成後の「気候修復」にも貢献できる、ユニークかつ不可欠な役割を持つ。
  • 非常に高コストだが、企業の先行購入契約や政府の支援によって、市場と技術開発が急速に進んでいる。
  • その大規模な普及は、抜本的なコスト削減と、再生可能エネルギーの爆発的な拡大にかかっている。

今後の展望

DACのコストは技術革新と規模の経済によって着実に低下していくと見られる。その未来は、気候変動ファイナンスのあり方を大きく変える可能性がある。高品質な炭素除去が、信頼性の高い資産として市場で取引されるようになれば、それは新たなグリーン産業を世界中に生み出す。

その時、この技術がもたらす恩恵を、先進国だけでなく、豊富な再生可能エネルギー資源を持つ途上国も享受できるような、公正で包摂的な国際協力の枠組みを構築できるかが、DACを真に地球全体の解決策とするための大きな挑戦となる。

In English: What Is Direct Air Capture?

Climate action is shifting from merely reducing current CO2 emissions to actively removing CO2 already in the atmosphere. Direct Air Capture (DAC) is seen as the ultimate tool for this removal stage: an innovative carbon removal technology that captures CO2 directly from the ambient air, rather than from a concentrated source.

DAC differs fundamentally from CCS (Carbon Capture and Storage), which targets high-concentration emissions at smokestacks. Because atmospheric CO2 is far more dilute (roughly 0.04%, now in the 420–430 ppm range as of 2025), DAC requires advanced chemistry to selectively capture CO2 from ordinary air. Captured CO2 is either stored permanently underground (DACCS) or utilized (DACCU, combined with CCU).

The IPCC has concluded that limiting warming to 1.5°C will require billions of tons of negative emissions in addition to deep emissions cuts. DAC plays two key roles: offsetting “residual emissions” from hard-to-abate sectors on the path to net zero, and helping to reverse any temperature overshoot beyond 1.5°C.

Two main approaches are in commercial development: solid DAC (using solid sorbent filters, as pioneered by Switzerland’s Climeworks) and liquid DAC (using alkaline solutions, as developed by Canada’s Carbon Engineering, acquired by Occidental Petroleum in 2023). Climeworks’ Mammoth plant in Iceland, operational since May 2024, is the world’s largest DAC facility, designed to capture up to 36,000 tons of CO2 per year using geothermal energy.

Globally, large offtake agreements — such as Microsoft’s 2024 deal with 1PointFive for 500,000 tons of DAC-based carbon removal credits — are driving market growth, while in Japan, METI’s DAC roadmap discussions and early-stage demonstrations by companies such as Kawasaki Heavy Industries and SyncMOF signal growing domestic interest.

DAC’s advantages include high measurability and credit integrity, minimal land use, and siting flexibility. Its core challenges remain extremely high costs (currently several hundred to over $1,000 per ton), heavy energy demand, and the risk of moral hazard — using future DAC deployment as an excuse to delay near-term emissions cuts.

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。