インドの気候テック企業プリスー(Prithu)は2026年5月5日、トランジションVC(Transition VC)主導のシードラウンドで110万ドル(約1億7,200万円)を調達したと発表した。
同社は、土壌有機炭素の蓄積、稲作の間断灌漑(AWD)、そしてバイオ炭施用を組み合わせた自然に基づく解決策(NbS)型の炭素除去(CDR)プラットフォームを運営しており、今回の資金で12〜24カ月以内にプロジェクト面積を現状約4万3,000ヘクタールから50万ヘクタール(約123万エーカー)まで拡張する計画である。2030年までに累計2,000万トンのCO2e隔離を目標に掲げる。
プリスーの構造的優位は、技術スタックそのものではなく現場運用の経済性にある。同社のフィールド担当者1人あたり400〜500農家を管理し、農家のオンボーディング所要時間は10〜20分、フル装備のオンボーディング単価は業界ベンチマークの約10分の1とされる。
インドでは耕地保有者の85%超が2ヘクタール未満の零細農家であり、零細性こそが従来NbSプロジェクトの規模化を阻んできた構造的ボトルネックである。プリスーはこの「フラグメント化された供給側」をフィールド密度で束ね、登録後のカーボンクレジット発行確率を90〜95%まで引き上げると主張する。
統合型のデジタル測定・報告・検証(dMRV)は、地上の土壌サンプリング、衛星モニタリング、機械学習、生物地球化学モデリングを組み合わせる構成で、ベラ(Verra)、ゴールドスタンダード(Gold Standard)、プロアース(Puro.earth)の方法論への対応を前提に設計されている。トランジションVC側は「技術はあくまで冗長性の確保であり、優位性の本丸はフィールド側にある」との見解を示しており、dMRVを技術エッジではなく運用補強レイヤーとして位置付けている点が他のテックドリブンなdMRVプレイヤーと異なる。
需要側を見ると、CORSIA本格運用とパリ協定6条のスケールアップにより、2027年以降の高品質NbSクレジット需要は累計500〜700メガトンCO2e規模に拡大するとの見通しもある。プリスー側はグローバルカーボンクレジット市場が現在の30〜40億ドル規模から2030年までに400〜500億ドル規模へ拡大すると主張しているが、これは同社による推計であり、第三者見通しとは数値感に幅があるため留保が必要である。
プリスーの本件は単発の調達案件として読むべきではなく、インドが「バイオ炭の世界的供給ハブ」になりうる初期シグナルとして読むべきである。
再生農業の永続性課題はインド単独では構造的に解けないが、世界有数のバイオマス残渣供給に支えられたバイオ炭エコシステムが組み合わさった瞬間、純粋な技術由来CDRに匹敵するパーマネンスをコスト優位のままで提供できる地政学的ポジションが立ち上がる。
参考:https://transitionventurecapital.substack.com/p/from-indias-fields-to-global-credits