米マイクロソフトは2025年12月17日、独アグリテックのインプラネット(InPlanet)と炭素除去(CDR)に関する長期購入契約を締結したと発表した。2026年から2028年にかけて、ブラジルでの風化促進(ERW)プロジェクトを通じて生成される2万8,500トン分のカーボンクレジットを調達する。本契約におけるカーボンクレジットは、英アイソメトリック(Isometric)の厳格なプロトコルに基づき検証・発行される。
マイクロソフトは2030年までのカーボンネガティブ実現を掲げ、自然由来および工学的な炭素除去技術への投資を加速させている。今回の契約は、同社のCDRポートフォリオにおいて、風化促進(ERW)技術へのコミットメントをさらに拡大するものだ。
インプラネットは2022年創業のスタートアップで、ドイツとブラジルを拠点とする。同社は、粉砕したケイ酸塩岩を農地に散布し、雨水との化学反応を通じて大気中のCO2を鉱物化・固定するERW技術を展開している。
今回のプロジェクトの舞台となるブラジルは、インプラネットにとって戦略的に重要な拠点である。現在、同社はサンフランシスコ市の面積に匹敵する1万2,000ヘクタール以上の農地でERWプログラムを展開している。
熱帯地域特有の高温多湿な気候は、温帯地域と比較して岩石の化学反応(風化)を加速させるため、炭素除去の効率が極めて高い。インプラネットの創業者兼CEOであるフェリックス・ハルテネック(Felix Harteneck)氏は声明で、「今回のマイクロソフトとの契約により、科学的な調査を深め、実環境下でのERWの有効性をさらに実証できる」と述べている。
特筆すべきは、本プロジェクトの信頼性担保の仕組みである。
ERWは単なる炭素除去技術にとどまらず、再生環境農業としての側面も持つ。 ケイ酸塩岩の散布は土壌の肥沃度を高め、化学肥料や石灰の使用量削減につながることが過去24ヶ月の実証で確認されている。マイクロソフトの炭素除去ポートフォリオ担当ディレクター、フィリップ・グッドマン(Phillip Goodman)氏は、「このプロジェクトは、土壌の健康を改善し、農家の生産性を支援する利点を示している」と指摘した。
本ニュースの核心は、単なる「マイクロソフトの大量購入」ではなく、CDR市場における「検証の質」への要求水準が一段と高まった点にある。
ERW(風化促進)は、測定の難しさ(MRVの複雑さ)が長年の課題であった。しかし、インプラネットがアイソメトリックという「科学的厳密さを売りにするスタンダード」での検証をクリアし、さらにビーゼロから高評価を得たことは、ERWが「実験的な手法」から「投資適格な金融商品」へと脱皮したことを意味する。マイクロソフトのようなトップティアの買い手は、もはや「除去予定」ではなく、「科学的に裏付けられた除去」しか相手にしなくなりつつある。
ブラジルのような熱帯地域が、ERWにおいては「反応速度」という物理的な競争優位性を持つことが改めて示された。日本企業がERWに取り組む場合、国内実施に拘泥せず、こうした高効率な適地を持つ海外プロジェクトへの資金拠出や技術提携が、コスト対効果の面で現実的な解となるだろう。
「肥料コスト削減」という実利を農家に提供できるERWは、地域社会への浸透速度が速い。日本の商社や農業関連企業にとっても、サプライチェーン排出量の削減(Scope3対策)とクレジット創出を両立させるモデルケースとして、インプラネットの事例は詳細に分析する価値がある。