マイクロソフト(Microsoft)は2026年5月20日、デンマークのバイオエコノミー企業バイオサーク(BioCirc)と、BECCS(バイオエネルギー炭素回収・貯留)由来の除去系カーボンクレジット65万トン分を7年間にわたり調達する契約を締結したと発表した。供給は2026年下半期から2032年までで、年間10万トンが引き渡される。
本契約はマイクロソフトが2026年4月、カーボンクレジット供給業者に対しCDR購入を一時停止する方針を伝達したと報じられて以降、初の大型案件である。当時の報道は耐久性CDR市場で支配的な買い手であるマイクロソフトの動向として業界に動揺を広げ、最高サステナビリティ責任者のメラニー・ナカガワ(Melanie Nakagawa)が「プログラム自体は終了せず、調達ペースと量を調整する」との立場を表明する事態に至っていた。
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CDR.fyiが公表した2026年第1四半期レポートによれば、同期間の耐久性CDR契約量に占めるマイクロソフトの比率は43%であり、市場全体の動向はマイクロソフトの調達判断に大きく依存する構造が続いている。本契約はその構造を改めて確認する案件と位置づけられる。
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カーボンクレジットはBioCircのデンマーク国内5箇所のバイオガスプラントであるファブルスコウ・バイオガス(Favrskov Biogas)を起点に、ヴェストヒンマーラン(Vesthimmerland)、ハデルスレウ(Haderslev)、グレンホイ(Grønhøj)、ヴィンケル(Vinkel)の各拠点で生成される生物起源CO2を回収し、デンマーク北海の海底1,500〜1,800メートルに位置するプロジェクト・グリーンサンド(Project Greensand)の地中貯留サイトに恒久的に固定することで生成される。1単位(CRU)はCO2 1トンの除去・貯留に対応する。バイオマス調達から施設運営、下流輸送までのライフサイクル排出は控除され、ネット除去量として計上される。
事業構造上の重要な特徴は、デンマークエネルギー庁のNECCS補助金とマイクロソフトのオフテイク契約の双方が成立要件である点を、BioCirc自身が発表で明示していることである。除去系カーボンクレジットの単独販売収入のみでは事業が成立せず、補助金との併用によって初めて投資判断が可能となる経済構造が、本案件の前提に据えられている。
マイクロソフトのカーボン除去ポートフォリオ責任者フィリップ・グッドマン(Phillip Goodman)は「BioCircの取り組みは、耐久性のあるスケーラブルなカーボン除去手法であると同時に、エネルギーシステム全体の脱炭素化に貢献する」とコメントした。BioCircグループCEOのベルテル・マイガード(Bertel Maigaard)は「残余排出への対処と気候目標達成を支援する組織と協働できることを歓迎する」と述べている。
本契約はマイクロソフトが2030年までにカーボンネガティブ化する目標の達成に向けた調達である。一方で4月以降の「ペースと量の調整」方針が撤回されたわけではない。1案件の締結をもってCDR購入戦略が以前の拡大基調に回帰したと解釈するのは早計であり、案件選別の規律化は継続している可能性が高い。
本契約はマイクロソフトのCDR市場における姿勢を再確認させる案件として位置づけられる。4月の「購入一時停止」報道は耐久性CDR市場に動揺を広げたが、本件によって同社が市場の主要買い手としての役割を継続する意思を持つことが具体的契約として示された。
ただし、本件をもってマイクロソフトのCDR購入戦略が報道前の拡大基調に復帰したと評価するのは適切ではない。同社CSOが言及した「ペースと量の調整」は、AI関連の電力需要急増という同社固有の経営事情と接続しており、調達判断の規律化、特に再エネという観点は構造的な変化として継続している。BECCSという技術選択、デンマーク政府補助金との併用という経済構造、北海地中貯留という永続性確保手段の組み合わせは、マイクロソフトが選別を強化した結果として浮上した案件性格を示唆する。
市場参加者にとって本件が示すのは、マイクロソフトの調達は継続するが「量より質」への傾斜が定着しつつあるという事実である。CDR市場全体の契約量を支えてきた単一買い手の選別基準が厳格化することは、サプライサイドにとって品質要件への対応投資の不可避性を意味する。
本件はカーボン除去市場が量的拡大から品質規律化へと移行する局面における代表的な事例として、今後の調達動向の参照点となる契約である。