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マレーシア、国家カーボンクレジット市場政策を発表 炭素税は据え置き、ボランタリー・コンプライアンス両市場の整備を先行

2026.05.01 読了 約6分
マレーシア、国家カーボンクレジット市場政策を発表 炭素税は据え置き、ボランタリー・コンプライアンス両市場の整備を先行
出典:イメージ

マレーシア政府は2026年4月21日、ペタリンジャヤで開催された「気候変動・サステナビリティ会議2026(CCSC 2026)」の場で、国家カーボンクレジット市場政策(NCMP、現地名称:Dasar Pasaran Karbon Kebangsaan、DPKK)を正式に発表した。

同政策は2026年4月1日に閣議決定されており、ボランタリーカーボンクレジット市場とコンプライアンスカーボンクレジット市場の双方を対象とする包括的な制度枠組みとなる。

一方、当初2026年中の導入も視野に入れていた炭素税については、現下の地政学的・経済的状況を踏まえ当面据え置く方針が示された。

国家レジストリ整備とパリ協定6条への接続

NCMPは、2024年9月25日に政府承認された国家気候変動政策2.0(DPIN 2.0)の主要施策として位置付けられる。発表に立ったダトー・スリ・アーサー・ジョセフ・クルップ(Dato’ Sri Arthur Joseph Kurup)天然資源・環境サステナビリティ大臣は、「我々は、削減または取引されるすべての炭素1トンが、誠実性と信頼に裏付けられたものとなるよう、データに支えられたカーボンクレジット市場の枠組みとエコシステムを強化している」と述べた。

具体的には、NCMPはマレーシア国内におけるカーボンクレジットの発行・移転・償却を一元的に追跡する**国家レジストリ(登録簿)**を整備し、ダブルカウントを防止する仕組みを構築する。さらに、パリ協定6条に基づく国際移転を見据えた制度設計が織り込まれており、マレーシアを国際カーボンクレジット取引の信頼性ある参加者として位置付けることを狙う。

「市場整備先行・税制後行」のシーケンシング戦略

NCMPと並んで注目されるのが、政策パッケージにおけるシーケンシング(順序付け)戦略である。クルップ大臣は記者会見で、エネルギーや鉄鋼など特定セクターを対象に2026年からの導入も視野に入れていた炭素税について、現時点では見送る方針を明らかにした。理由として、地政学的緊張や経済的圧力のもとで「産業界や消費者に追加的な負担を課すことは望まない」点を挙げ、まず機能するカーボンクレジット市場を整備し、企業が将来の税負担を相殺するための手段を確保することを優先する考えを示した。なお炭素税の所管は財務省であり、引き続き検討対象となる。

この「市場先行・税制後行」のアプローチは、産業界の制度参加意欲を確保しながら段階的に脱炭素コストを内部化していく設計思想を反映したものといえる。

連邦・州間の規制調和と国際連携

NCMPの実装上の論点として、連邦政府と州政府との制度調和が挙げられる。ボルネオ島に位置するサバ州およびサラワク州は、すでに独自のカーボンクレジット関連政策を導入しており、サバ州では熱帯雨林再生プロジェクトに基づくカーボンクレジット発行も進んでいる。クルップ大臣は、ルールを管轄横断で整合させるための特別合同委員会を設置する方針を示し、地方分権的に進んできた州レベルのイニシアチブを国家政策の枠組みに統合する意向を明確にした。

国際連携の側面では、マレーシアはすでに韓国およびシンガポールと、高インパクトのカーボンプロジェクト協力に関する覚書(MOU)を締結している。これらの枠組みを通じ、マレーシアは域内のカーボンクレジット供給ハブとしての地位確立を目指す。

2029~2034年ピークアウト、2050年ネットゼロ

NCMPは、2025年10月24日に政府が承認したマレーシアの最新の国別貢献(NDC)を実装する手段でもある。同NDCは、温室効果ガス(GHG)排出を2029年から2034年の間にピークアウトさせ、可能な限り2029年に近い時期での実現を目指すと定める。ピーク時点を基準として2035年までに1,500万から3,000万トンCO2換算の絶対削減を達成する目標が設定されており、このうち2,000万トンまでは無条件目標として国内努力で達成し、追加1,000万トンは条件付き目標として国際的な資金支援、技術移転、能力構築の獲得を前提とする。最終目標として2050年までのネットゼロ達成が掲げられている。

加えて、政府はDPIN 2.0およびNCMPの実効性を法的に担保するため、気候変動法案の最終調整を進めており、政策の法的拘束力を強化する方針である。

マレーシアのNCMPは、日本の企業および政策当局にとって複数の観点で実務的影響を持つ。

第一に、日本は二国間クレジット制度(JCM)のパートナー国としてマレーシアと連携しており、NCMPによる国家レジストリ整備とパリ協定6条対応の制度化は、JCMを通じた国際移転対応クレジット(ITMO)の発行・移転プロセスの予見可能性を高める。日本企業がマレーシアで実施する省エネ・再エネ・森林保全プロジェクトのバンカビリティ向上が期待される一方、ホスト国側の発行ルールが厳格化することで、追加性や永続性に関する立証要求が一段引き上げられる可能性にも留意が必要である。

第二に、マレーシアの「市場整備先行・炭素税据え置き」戦略は、2026年4月から段階的に本格稼働した日本のGX-ETSとの対比で示唆的である。両国とも産業界の実態を踏まえた段階的アプローチを採るが、マレーシアはより明示的にカーボンプライシングの順序として市場インフラ構築を優先する姿勢を打ち出した。アジア新興国における制度設計が、欧州型のキャップ&トレードや炭素税を起点とするモデルとは異なる経路で進化している点は、域内サプライチェーンを抱える日本企業の中長期リスク評価に直結する。

第三に、サバ州・サラワク州における州レベルの自然由来カーボンクレジット供給は、日本の商社・電力・エネルギー各社のオフテイク戦略にとって重要な選択肢となる。連邦・州間の規制調和の進捗、レジストリ統合のタイムライン、永続性追加性・コベネフィットの担保水準が、今後のプロジェクト評価とディールストラクチャリングにおいて決定的な指標となろう。

参考:https://www.nres.gov.my/ucapan/Koleksi%20Ucapan/20260421_YBM%20Speech_%20THE%20CLIMATE%20CHANGE%20AND%20SUSTAINABILITY%20CONFERENCE%202026%20(CCSC%202026)%20%26%20THE%20LAUNCH%20OF_Final.pdf

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。