本文へスキップ
最新ニュース
海外ニュース

ホルシムがCO2鉱物化由来の補助セメント材をドイツで初の商業適用

2026.05.14 読了 約5分
ホルシムがCO2鉱物化由来の補助セメント材をドイツで初の商業適用
出典:イメージ

スイスの建材大手ホルシム(Holcim)は、スウェーデンのスタートアップであるパエブル(Paebbl)、ドイツの建設会社ゴルトベック(Goldbeck)と連携し、CO2 を鉱物化した補助セメント材「Paebbl Rebond」を商業プロジェクトに初投入したと発表した。適用先はドイツ南部に建設されたグローバル小売事業者向け物流センターの基礎部分である。

今回のコンクリート床版配合は、参照配合となる CEM II/B-M と比較してセメント使用量を 15% 削減すると同時に、施工面積 420 平方メートルにわたって 886 キログラムの CO2 を鉱物として永続的に固定した。コンセプトから実装まで 6 か月で完結している。

鉱物化由来のセメント代替材を商業規模で投入した事例は乏しく、欧州セメント業界における脱炭素手段の選択肢拡張という観点で注目される動きである。

加速鉱物化による補助セメント材

Paebbl Rebond は、回収済み CO2 を加速鉱物化技術によって炭酸マグネシウムと二酸化ケイ素を主成分とする淡灰色の粉末に変換した補助セメント材(SCM)である。クリンカ系セメントの一部を代替する用途で配合され、コンクリートの埋め込み炭素を引き下げると同時に、CO2 を岩石類似の安定鉱物として恒久的に封じ込める設計となっている。

技術的位置づけとしては、既存の SCM である高炉スラグやフライアッシュと用途が重なる一方、原料となる CO2 を別経路から調達する点で従来 SCM と性格を異にする。

限定的スケールでの実証完了

プロジェクトはリヨンのホルシム・イノベーションセンターでの実験室試験を経て、ホルシム南ドイツの製造拠点で施工性、空気量、ブリーディング挙動などのプラント試験を実施した。製品については検証済みの環境製品宣言(EPD)も整備されている。

ホルシムは MAQER ベンチャーズを通じてパエブルに出資しており、同部門責任者のベンクト・シュタインブレッヒャー(Bengt Steinbrecher)氏は、革新的技術をスケールさせる方法を実証できた事例だと位置づけた。

ただし固定量は 886 キログラムにとどまり、世界のセメント由来 CO2 排出量(年間約 28 億トン規模)との対比では象徴的な数字である。実証段階を超えた本格適用には、原料 CO2 の安定供給網、鉱物化プロセスのエネルギー収支、製品コスト競争力の確立が前提条件となる。

セメント業界脱炭素の三本柱における位置づけ

セメント業界の脱炭素経路は、技術選択肢が限定されている。主要なパスウェイは三つに整理できる。第一にクリンカ係数の低減、すなわち SCM 置換によるクリンカ生産量そのものの削減。第二にキルン燃料の低炭素転換(バイオマス、廃棄物、水素等)。第三に排出端での CCS 統合である。

このうち SCM 置換は最も実装が進んでおり、欧州では高炉スラグ系セメントが広く流通してきた。ただし鉄鋼業界の脱炭素化(電炉転換、水素還元製鉄)と石炭火力縮減が並行して進めば、スラグとフライアッシュの供給は中長期的に細る見通しであり、代替 SCM の確保はセメント業界全体の構造的課題となりつつある。

鉱物化由来 SCM は、こうした既存 SCM の供給制約に対する新規ソースとして位置づく可能性がある。一方で、886 キログラムという小規模性をもって過小評価とする見方には、商業初号機の意義は規模ではなく実装可能性の確認にあるとの反論も成立する。普及には原料 CO2 の安定確保とコスト構造の整備が条件となり、セメントプラント側の CCS 統合(ハイデルベルク・マテリアルズの Brevik 案件等)や燃料転換の進捗とあわせて、脱炭素ポートフォリオの中で評価する必要がある。

今回の発表は、セメント業界の脱炭素経路を構造的に変える性質のものではなく、SCM 置換系の選択肢が一つ増えた事象として整理するのが妥当である。

鉱物化技術の永続性と商業適用が成立した事実そのものは評価できるが、固定量 886 キログラムという規模感、CO2 源情報の不開示、コスト・スケール経路の不透明さを踏まえれば、現時点で「業界の転換点」と位置づけるのは過大評価となる。

セメント業界の本格的な排出削減は、クリンカ係数低減・燃料転換・CCS の組み合わせ最適化に依存し、いずれか単独の技術が決定打となる構図ではない。鉱物化由来 SCM は、既存 SCM の供給細りが現実化する局面で価値を増す補完的選択肢であり、本件はその商業フィージビリティの初期検証として読むのが正確である。逆に言えば、セメントプラント側の CCS 統合や燃料転換の進捗、原料 CO2 供給網の構築といった周辺要素が同時に成立しなければ、鉱物化 SCM 単独で意義を発揮することは難しい。本件単独で過度な期待を寄せるべきではないが、セメント脱炭素のポートフォリオ拡張という観点では着実な前進と評価できる。

参考:https://www.holcim.com/media/company-news/paebbl-goldbeck-carbon-storing

関連タグ CDR
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。