ワシントンを拠点とする気候NGOのカーボン180(Carbon180)が、米国は海洋CDR(mCDR)の主導的地位を失う恐れがあるとして、連邦政府に新たな法整備と研究資金の回復を求める政策ロードマップを公表した。
同団体は、規制の不確実性と相次ぐ連邦資金の削減が国内研究を停滞させていると指摘する。
カーボン180が求める研究投資と法整備
ロードマップは、mCDR研究の調整に特化したReSCUE海洋法案(Removing and Sequestering Carbon Unleashed in the Environment and Oceans Act)の可決を最優先と位置づける。超党派で再提出された同法案は、mCDR研究の調整と拡大のみを目的とする初の連邦法案である。
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あわせて、NSF(米国科学財団)によるmCDR研究への年間最低4,950万ドル(約79億円)の予算措置と、ICOOS法(統合沿岸海洋観測システム法)の再承認を求めている。
要求の背景には、国内研究を取り巻く資金環境の悪化がある。OBBB法(One Big Beautiful Bill Act)により、NOAAやUSDAに配分されていた気候研究資金の一部が停止または取り消された。
一方で、EUが独自のCDR認証枠組みの整備を進めるなか、予見可能な規制環境を求めるVCM投資家が他地域へ流れる懸念も示されている。
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実証を欠く除去ポテンシャル
もっとも、こうした政策論議の前提として、mCDRが除去系カーボンクレジットの供給源として確立されているわけではない。
海洋は大気の約50倍のCO2を保持する最大の炭素吸収源であり、理論上の除去ポテンシャルは陸上の手法を上回るとされる。だが、その有効性と永続性を実証する段階には至っていない。
最大の障壁はMRVである。広大かつ常に変動する海洋環境において、いつ、どれだけのCO2が、どの程度の期間にわたり確実に貯留されたかを測定・検証することは難しく、信頼性の高いカーボンクレジット創出の前提が整っていない。
生態系への不確実な影響
環境面の不確実性も残る。生物的手法では、表層での光合成促進が海域の酸素を消費する海洋脱酸素化や、他海域で必要な栄養塩を奪う懸念が指摘される。
化学的手法では、海水のアルカリ度を高める過程で重金属が環境中に放出されるリスクや、魚類など高次の生物への影響が未解明のまま残されている。
これらは小規模な実地試験を通じて慎重に検証すべき段階にあり、大規模展開を前提とした制度設計や市場形成を論じる局面には至っていない。
なお、mCDR産業の市場規模は2032年までに約25億ドル(約4,000億円)に達するとの推計もあるが、その実現は安全性と有効性の立証を条件とする。
編集部の視点
カーボン180の警告は、mCDR市場が構造的な転換点にあることを示すものではなく、研究資金の確保をめぐる政策アドボカシーの文脈で読む必要がある。ReSCUE海洋法案も研究の調整枠組みであり、除去系カーボンクレジットの商業的供給に直結する制度ではない。
mCDRが市場として立ち上がる前提は、MRVと永続性の実証にある。米国の資金削減やEUとの競争を主導権争いとして描く構図は、実証段階にある技術の現在地を過大に映している。
参考:https://carbon180.org/pathway/marine-carbon-dioxide-removal/
