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【GX ETS始動連載】移行計画とは何か? GX-ETSの「もう一つの義務」が持つ実務と戦略的意味

2026.04.10 読了 約5分
【GX ETS始動連載】移行計画とは何か? GX-ETSの「もう一つの義務」が持つ実務と戦略的意味
出典:イメージ

GX-ETSに関する解説の多くは、排出枠の算定・保有義務に焦点が当たりがちだ。しかし、制度対象者が毎年度9月30日までに果たすべき義務はもう一つある。それが移行計画の作成・提出である。

GX推進法第73条に基づき、届出を行った制度対象者(脱炭素成長型投資事業者)は、毎年度、経済産業大臣および事業所管大臣に対して移行計画を提出しなければならない。提出はERMS(排出量取引管理システム)を通じて行い、届出の後に提出が可能となる。提出期限は届出と同じく毎年度9月30日であり、厳守が求められる。

注意すべきは、内容に不備があった場合はERMS上での差戻しが発生し、再提出を迫られることだ。ERMS上で提出操作を行ったとしても、記載内容が法令上の要件を満たしていなければ「提出完了」とはみなされない。余裕を持ったスケジュールで作業に取り組むことが公式マニュアルにも明記されている。

なお、移行計画の提出に際して、登録確認機関等の第三者による確認や自社の機関決定は不要とされている。あくまで事業者単位で作成・提出することが原則であり、組織境界を任意で設定することはできない。

移行計画の記載事項、2つの大分類で構成される

移行計画の記載事項は、大きく「I:CO2の排出量に関する事項」と「II:脱炭素成長型経済構造への移行に資する投資その他の事業活動に関する計画」の2部構成となっている。

I:CO2の排出量に関する事項

前年度のCO2排出量として、直接排出量(Scope1相当)と間接排出量(Scope2相当)をそれぞれ必須項目として入力する。合計量はシステムが自動算出する。

ここで重要な実務的ポイントがある。間接排出量については、SHK(温対法)制度で活用可能な非化石電源CO2削減相当量や、グリーンエネルギー二酸化炭素削減相当量(証書)を反映した排出量を記載できる。また、JクレジットおよびJCMクレジットの無効化量を差し引いた排出量として報告することも可能だ。移行計画においては、排出実績量の報告(実排出の10%上限)と異なり、クレジット無効化量の上限制限が設けられていない点は押さえておきたい。

CO2排出量の目標については、2026年度から2030年度までの各年度の直接排出量目標と間接排出量目標を必須入力とする。2030年度の排出量目標に基づく削減率はシステムが自動算出する。削減率の基準は、制度対象初年度の移行計画に記載した前年度排出量であり、制度対象外となった後に再度対象となった場合は基準年が更新される。

II:投資その他の事業活動に関する計画

第II部は4つの小項目で構成される。

「設備投資計画の内容及び期待効果」では、実施する削減対策の内容、対象となる工場等又は輸送手段、着手時期・完了時期、排出削減効果(tCO2/年)を投資計画ごとに記載する。

「研究開発の内容」では、GX関連技術分野の研究開発に係る特許出願番号又はGI(グリーンイノベーション)基金のプロジェクト名、研究内容、研究開発費用を入力する。

「その他脱炭素取組」は自由記述欄であり、中期経営計画やサステナビリティレポートなど、自社のカーボンニュートラル実現に向けた計画等を記載した公表文書のURLを貼付する形式だ。

「前年度計画との比較」は前年度から変更がある場合のみ記載する。

公表される項目と非公表の項目

提出された移行計画は、毎年度、経済産業省および事業所管省庁のウェブサイトで個社ごとに公表される。ただし、すべての記載事項が公表されるわけではない。

公表対象となるのは、前年度のCO2排出量(直接・間接・合計)、2030年度の排出量目標(削減率)、研究開発の内容、その他脱炭素取組の4項目だ。一方、設備投資計画の内容・期待効果と前年度計画との比較は非公表扱いとなる。

投資計画の詳細(投資金額・投資対象設備・着手完了スケジュール・削減効果)が非公表とされているのは、競争上センシティブな情報の保護という観点からの配慮と解釈できる。企業にとっては、競合他社に事業戦略の中身を開示せずに制度義務を果たせる点で実務的なメリットがある。

移行計画が持つ戦略的意義

移行計画を単なる法令対応と捉えると、その潜在的な価値を見逃す。

公表される2030年目標と研究開発・脱炭素取組の内容は、投資家・機関投資家・取引先に向けた気候関連の公式コミットメントとなる。開示文書に記載した数値と移行計画の数値が乖離していれば、ESG評価や格付けへの悪影響が生じる可能性がある。特にサステナビリティレポートや統合報告書でSBT目標を宣言している企業にとって、2030年の排出削減目標欄は対外コミットメントとの整合性確認が不可欠な項目だ。

また、Jクレジット・JCMクレジットの活用戦略を移行計画に反映させることで、カーボンクレジット調達コストと排出枠調達コストの最適化を図る全社的な排出管理の起点にもなり得る。カーボンクレジット市場における調達計画と移行計画の記載内容を連動させることは、財務効率の観点から重要な論点となる。

加えて、毎年度の計画更新と前年度比較の義務があるため、一度記載した内容は翌年度の出発点となる。初年度の計画内容が後年の基準として機能することを踏まえると、2026年度初回提出の質と整合性には特段の注意が必要だ。

コラムシリーズの最後に、5本の内容をエッセンスとして凝縮したコンバージョン資料「終えてない方必見、これだけ見ればGX-ETSがわかる」の提供を予定している。GX-ETSへの対応を検討している方は、ぜひ資料のダウンロードをご活用いただきたい。

参考:https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets.html

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。