GX-ETS(GX推進法に基づく排出量取引制度)において、見落としてはならない根本的な仕様がある。事務局(経済産業省・脱炭素成長型経済構造移行推進機構)は、制度対象に該当する事業者を個別に指定・通知しない。
対象か否かの確認は、各事業者が毎年度9月30日の届出期限までに、自ら実施しなければならない。
「通知が来なかったから対象外」という判断は通用しない。通知が来なかったとしても、実態として対象要件を満たしていれば届出義務は発生する。これを怠った場合、GX推進法に基づく50万円以下の罰金が科されるリスクがある。
自己判定の誤りが法的リスクに直結する以上、判定ロジックを正確に理解することは実務上の必須要件だ。
以下に、判定を進める上での3つのステップを整理する。

判定の出発点は、自社がGX-ETSにおける「事業者」の定義に該当するかどうかの確認である。
本制度における事業者とは、権利義務の帰属主体たる法人格を有する者のうち、国又は地方公共団体以外の商業・工業・金融業その他の事業を行うものを指す。ただし、国内に本店等を有する法人又は個人に限られる。
法人格を持つ組織のうち、制度対象となり得るのは、株式会社・合同会社・一般社団法人・医療法人等の営利・非営利法人、国立大学法人を含む公共法人等、宗教法人等の公益法人等、森林組合・中小企業等協同組合等の協同組合、そして特定目的会社(SPC)などである。
一方、人格なき社団(同業者団体等)、組合、匿名組合、投資事業有限責任組合(LPS)、有限責任事業組合(LLP)は事業者に該当しない。法人格の有無が分水嶺となる。
重要なのは、判定が事業者単位で行われる点だ。グループ企業の場合でも、子会社・関連会社はそれぞれ別の事業者として扱われ、個別に判定する必要がある。親会社が制度対象であっても、子会社が自動的に対象となるわけではない。
事業者に該当することが確認できたら、次は数値基準による判定だ。本制度の対象となるのは、前年度までの直近3年度のCO2直接排出量の平均値(年度平均排出量)が10万トン以上の事業者である。
ここでの「直接排出量」とは、いわゆるScope1に相当するCO2排出量を指す。具体的には、工場等における燃料の燃焼や製品の製造などの自社活動から直接排出するCO2である。他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出(Scope2相当)は対象外であり、CO2以外のメタン等の温室効果ガスも算入しない。
計算式は次のとおりだ。
年度平均排出量 =(前年度のCO2直接排出量 + 2年度前のCO2直接排出量 + 3年度前のCO2直接排出量)÷ 3
なお、本制度における「年度」の単位は、当該事業者の事業年度にかかわらず、4月1日から翌3月31日までの期間で統一されている。
また、カーボンクレジットを無効化した量や他者への移転量は、年度平均排出量の算定に考慮しない点に留意が必要だ。輸送に係る排出量については、輸送能力が告示で定める閾値以上の輸送区分のみを算入する。
直近3年度の間に合併・吸収分割・事業譲渡等があった場合、消滅会社等の合併等日前のCO2直接排出量を加味して判定を行う調整は行わない。あくまで現在の事業者単位で算定した実績数値のみを用いる。この点は特に組織再編後の企業が陥りやすい誤りであるため、注意が必要だ。
直近3年度のデータが存在しない事業者については、以下の例外的な計算方法が適用される。
2年度前に事業を開始した事業者は、直近2年度(前年度と2年度前)の平均値を年度平均排出量とする。前年度に事業を開始した事業者は、前年度1年度分のデータのみを年度平均排出量とする。いずれも当該数値が10万トン以上であれば制度対象となる。
なお、直近3年度の間に自然災害や法令点検等によってCO2直接排出量が大幅に変動した場合であっても、補正等は行わない。あくまでも実績値による機械的な平均計算に基づいて判定される。
制度対象となった事業者が、一定の要件を満たす密接関係者(子会社・関連会社・兄弟会社等)と共同で届出を行う「共同届出」の仕組みも用意されている。共同届出を行うためには、(1)届出主体と密接関係者であること、(2)密接関係者が制度対象者であること、(3)密接関係者と一体的なGX投資を行っていること、の3要件を同時に満たす必要がある。
共同届出体は一度組成されると、当該制度対象年度における義務履行が終わるまで変更できない。グループ内で共同届出を検討する場合は、要件の充足確認と体制構築を9月30日よりも早い段階から進めることが現実的だ。
2026年度(制度初年度)における制度対象の判定は、2023年度・2024年度・2025年度の3年間のCO2直接排出量の平均値が基準となる。すでに判定に必要なデータ期間は確定しているため、今すぐ算定に着手することが可能だ。
この3年平均が10万トン以上であれば、2026年9月30日までに届出が必要となる。
次回コラムでは、2026年度という制度初年度に固有の特例スケジュールと、今年度中に完了すべき具体的な対応事項を解説する。

参考:https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets.html