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【GX ETS始動連載】排出枠はどう決まるのか? ベンチマーク方式の仕組みと排出枠サイクルの全体像

2026.04.10 読了 約5分
【GX ETS始動連載】排出枠はどう決まるのか? ベンチマーク方式の仕組みと排出枠サイクルの全体像
出典:イメージ

GX-ETSに参加する事業者にとって、制度の中核となる問いが「自社にいくらの排出枠が割り当てられるのか」である。

排出枠は、政府から無償で付与される。しかしその量は各社横一線ではない。どの算定方式が適用されるかによって、割当量が変わり、取引市場での調達コスト、あるいは売却収益に直結する。

制度設計を深く理解した企業と、そうでない企業の間で、同じ排出量でも経済的な損得が生まれる構造になっている。

本コラムでは、排出枠の割当量を決定する「排出目標量等合計量」の算定ロジック、特にベンチマーク(BM)方式の仕組みを解説した上で、割当から保有義務履行までのサイクル全体を整理する。

排出枠の割当量を決める「排出目標量等合計量」

制度対象事業者は、毎年度の届出において「排出目標量等合計量」を政府に届け出る。政府はこの数値を基に排出枠を割り当てる。原則として、割当排出枠の量は届け出た排出目標量等と同量となる。

排出目標量等合計量は、以下の2つの要素で構成される。

「排出目標量」は、当該制度対象者が特定事業活動(後述のベンチマーク対象業種における事業活動)について算定した排出量の目標値であり、一定の基準(ベンチマーク)に基づいて算定される。「勘案事項による調整量」は、一定の要件を満たした場合に排出目標量に追加的に付与される調整値だ。

したがって、排出目標量等合計量を最大化するためには、ベンチマーク方式の算定ロジックを正確に理解し、自社の活動実態を適切に反映させることが重要となる。

なお、排出目標量の届出にあたっては、事前に登録確認機関(後述)による確認を受けることが義務付けられている。

ベンチマーク方式の基本構造

ベンチマーク方式とは、特定の産業分野における「排出効率の業界標準値(BM指標)」と自社の「活動量」の積によって排出目標量を算定する方式だ。

排出目標量 = BM指標 × 活動量

BM指標は業種・特定事業活動ごとに設定されており、単位は「t-CO2/製品重量(トン)」や「t-CO2/生産量」等、業種の特性に合わせた形を取る。活動量は、当該事業者の前年度における特定事業活動の規模(生産量等)を表す。

BM指標には大きく2種類がある。「製品BM(製品ベンチマーク)」は製品単位当たりの排出量を基準とする方式で、生産量の増減に応じて排出目標量が変動する。「燃料BM(燃料ベンチマーク)」は投入燃料量を基準とする方式で、製品BMの適用が困難な工程に用いられる。

具体例を挙げると、ガラスびん製造業の場合、BM指標は「直接排出量÷生産量」(製品BM)となっており、生産量1トン当たりのCO2排出量として業界標準値が設定されている。

これらの業種固有のBM指標は、経済産業省が公表する「排出目標量算定のためのベンチマーク」に詳細が記されており、対象業種ごとに活動量の定義・算定方法・証憑類の整備要件が示されている。

ベンチマーク対象外の場合、排出量ベース算定

すべての事業活動にBM指標が設定されているわけではない。特定事業活動の対象外となる事業活動については、ベンチマークではなく直接排出量に基づく別の算定方式が適用される。この場合、届け出る排出目標量は、前年度の直接排出量実績を基礎として算定される。

自社の事業活動がどのBM対象業種に該当するか、あるいは該当しないかを正確に判断することが、実務上最初のチェックポイントだ。該当する業種が複数ある事業者、またはBM対象活動と非BM活動が混在する事業者は、活動区分の整理が不可欠となる。

登録確認機関の役割と早期契約の重要性

排出目標量の届出および排出実績量の報告にあたっては、あらかじめ政府の登録を受けた「登録確認機関」による確認を受けることが求められる。

登録確認機関は、制度対象者が設定・算定した排出目標量および排出実績量が適切に算定されているかを確認する第三者機関だ。登録確認機関の受付は2026年1月5日から開始されており、確認を受けた機関の一覧は経済産業省ウェブサイトで公表されている。

実務上の重要ポイントは、期限までに確認業務を完了させるためのリードタイムだ。

登録確認機関による確認には一定の準備・審査期間が必要であり、届出・報告期限の直前に依頼しても間に合わない可能性がある。制度対象事業者は、登録確認機関の選定および契約を計画的に早期から進めることが公式マニュアルにも明示的に推奨されている。

排出枠の割当から償却までのサイクル

排出目標量等合計量の届出を受けた政府が排出枠を割り当てる(11月末)と、当該排出枠は制度対象者のERMS上の法人等保有口座に記録される。

その後のサイクルは以下のとおりだ。

まず排出枠は、GX推進機構が開設する排出枠取引市場や相対取引等を通じて売買できる。排出枠が不足する事業者は市場から調達し、余剰がある事業者は売却できる。翌年度の9月30日に排出実績量を報告すると、経済産業大臣から保有義務量(排出実績量に相当する排出枠の量)が通知される。翌々年の1月31日までに保有義務量と同量の排出枠を口座に保有していることが求められ、その時点で経済産業大臣が口座から排出枠を消滅させる(償却)。

排出枠が保有義務量に満たない場合は、未償却相当の負担金の支払い義務が生じる。

活動量の精度が戦略的差異を生む

ベンチマーク方式の下では、BM指標自体は業界横一線で設定されているため、排出目標量の多寡を決めるのは「活動量」の精度と正確な計上範囲だ。適切なバウンダリー(活動の境界)設定と証憑類の整備が、正当な排出枠の確保に直結する。過剰に保守的な算定は機会損失につながり、逆に根拠のない過大計上は登録確認機関による確認で否認されるリスクがある。

次回コラムでは、GX-ETSにおいてもう一つの主要な義務である「移行計画」の実務的な記載ポイントと、経営戦略との統合について解説する。

参考:https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets.html

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。