国境を越えて人やモノを運ぶ国際航空は、そのグローバルな性質から、特定の国の規制だけでは脱炭素化が困難である。この課題に対応するため、航空業界自身が国連の専門機関のもとで創設した、セクター全体での排出削減メカニズムがCORSIA(コルシア)である。
本稿では、世界の空の脱炭素化に向けた、この国際的枠組みについて、その仕組み、重要性、そして炭素市場に与える影響を解説する。
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CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)とは、国際航空分野からのCO2排出量の増加を抑制するために、ICAO(国際民間航空機関:国連の専門機関)が主導する、世界共通の市場メカニズムである。
その目標は「2020年以降のカーボンニュートラルな成長(Carbon Neutral Growth from 2020, CNG2020)」である。具体的には、世界の国際線から排出されるCO2の総量がベースラインを超えた場合、その増加分を、各航空会社がカーボンクレジットの購入・償却などによってカーボンオフセットすることが義務付けられる。
なお、当初は2019年排出量そのものがベースラインとされていたが、2022年10月のICAO第41回総会での決定により、2024年から制度終了(2035年)までのベースラインは2019年排出量の85%に引き下げられた。これにより、航空会社に求められる実質的な削減・オフセットの野心度は、制度設計当初よりも高まっている。
前述の通り、2024年以降のベースラインは2019年の国際航空CO2排出量の85%である。毎年の排出量がこのベースラインを超過した場合、その超過分(セクター全体の成長率)が、各航空会社の飛行実績(RTK:有償トンキロ)に応じて配分され、個社ごとのオフセット義務量となる。
例えば2024年については、ICAOが公表したセクター全体の成長率は15.4%、業界全体のオフセット義務量は約5,560万トンと算定されている。
航空会社は、課せられたオフセット義務を、主に以下の2つの方法で履行する。
CORSIA適格クレジットの購入と無効化(リタイアメント)
ICAOが承認した、信頼性の高いカーボンクレジットを購入し、自らの義務量として償却する。2021年以降に発行されたクレジットについては、原則としてホスト国によるパリ協定6条に基づく相当調整(コレスポンディング・アジャストメント)の実施が承認条件の一つとなっており、クレジットの品質と国際的な整合性を担保する仕組みが組み込まれている。
CORSIA適格燃料(SAF)の使用
SAF(持続可能な航空燃料)を使用した場合、そのライフサイクル排出量(gCO2e/MJで評価)に基づき削減効果が認められ、自社の排出量が少ないものとして計算される。これにより、航空会社のオフセット義務そのものが減少する。
これらの履行状況は、ICAOが定めるMRV(モニタリング・報告・検証)の枠組みに基づき、第三者検証機関による確認を経てICAOに報告される。
急激な負担を避けるため、制度は3段階で導入されている。
CORSIAは、特定の産業セクターを対象とした、世界初のグローバルな気候変動対策の枠組みであり、極めて重要な意味を持つ。
CORSIAは、各国がバラバラに航空税や排出規制を課すことによる、国際的な混乱や二重負担を避けるための、統一されたルールを提供する。
成長を続ける航空業界に対し、CO2排出のオフセットを義務付けることで、CORSIAはボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)にとって、安定的かつ巨大なカーボンクレジット需要を生み出す、最大の買い手の一つとなる。これは、市場全体の価格を支え、途上国などでのプロジェクトへの資金供給を促進する。
前述の通り、航空会社はSAFを使用することで、CORSIAの下でのオフセット義務を減らすことができる。これが、まだ高価で供給量の少ないSAFの製造と利用を促進するための、強力な経済的インセンティブとなっている。
オフセットへの依存
制度が、航空業界自身の排出削減(エンジン効率の改善など)を直接義務付けるのではなく、他分野の削減分でオフセットすることに大きく依存している点について、その野心度が十分ではないとの批判がある。
クレジットの品質
制度全体の環境的な健全性は、承認される「適格クレジット」の品質に完全に依存する。そのため、ICAOの選定プロセスに加え、ICVCMのCore Carbon Principles(CCPs)のような第三者評価の枠組みにも、常に厳しい視線が注がれている。自社が調達するCORSIA適格クレジットやサプライヤーの品質を客観的に比較・評価したい企業にとっては、CDR PROのような専門プラットフォームを活用した検討も有効である。
対象範囲
あくまで国際線のみが対象であり、各国の国内線の排出は、それぞれの国の政策(例:EU ETS)の対象となる。
2026年7月時点、CORSIAは第1フェーズ(2024〜2026年)の最終年を迎えており、2027年からの義務化フェーズ(第2フェーズ)への移行を目前に控えている。
適格クレジットを供給できる認証プログラムの承認も段階的に進められており、ICAO理事会はパイロットフェーズ向けに11、第1フェーズ向けに8のプログラムを承認してきた。第2フェーズ(2027〜2029年)向けにはこれまでに、Gold Standard、Verra(VCS)、ACR、ART TREESの4プログラムが承認されている。
IATA(国際航空運送協会)の試算では、第1フェーズを通じて航空業界全体で2億トン規模のクレジットが償却され、コストは40〜50億ドル規模に達する見通しである。日本を含む各国の航空会社も、この義務履行に向けた適格クレジットの調達・償却やSAFの導入を進めている段階にある。
CORSIAは、国際航空業界のCO2排出増加を抑制するための、世界で唯一のグローバルな市場メカニズムである。
CORSIAは、ICAOが運営する、国際航空分野のための排出削減・オフセット制度である。2019年排出量の85%(2024年以降)を基準に、その超過分をオフセットすることを目的とする。
航空会社は、SAFの使用、またはCORSIA適格クレジットの購入・無効化によって義務を履行する。そのクレジット需要は、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)の重要な支えとなっている。
CORSIAは、国際的な合意形成が極めて難しい分野において、業界自らが主導して作り上げた、現実的かつ重要な一歩である。国際開発の視点からも、先進国の航空会社から、途上国で実施される排出削減プロジェクトへと、新たな気候変動ファイナンスの流れを生み出す橋渡し役としての役割を担っている。2027年からの義務化フェーズを迎えるにあたり、制度の実効性と信頼性は今後さらに注目を集めることになる。
CORSIA (Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation) is a global, sector-wide market mechanism led by ICAO (the International Civil Aviation Organization), the UN’s specialized aviation agency. Because international aviation crosses borders, no single country’s regulations can effectively curb its emissions — so the industry itself, through ICAO, created CORSIA to address this gap.
The scheme’s goal is “Carbon Neutral Growth from 2020” (CNG2020): when global CO2 emissions from international flights exceed a baseline, airlines must offset the excess. That baseline was originally set at full 2019 emissions, but ICAO’s 41st Assembly revised it in October 2022 to 85% of 2019 emissions for the period from 2024 through the scheme’s end in 2035 — raising the scheme’s real-world ambition.
Airlines meet this obligation in two main ways: purchasing and retiring ICAO-approved CORSIA Eligible Emissions Units, or using CORSIA Eligible Fuels (chiefly Sustainable Aviation Fuel, SAF), whose lifecycle emissions reductions lower an airline’s calculated obligation. Compliance is monitored, reported, and verified (MRV) under ICAO’s framework.
CORSIA is rolling out in three phases: a voluntary Pilot Phase (2021–2023), a voluntary First Phase (2024–2026), and a mandatory Second Phase (2027–2035) that will apply to nearly all ICAO member states, with narrow exemptions for least-developed, small-island, and landlocked developing countries.
As the world’s first global sectoral climate measure, CORSIA creates major, stable demand for carbon credits in the voluntary carbon market and gives a strong economic push to SAF adoption — while facing ongoing scrutiny over its reliance on offsets rather than direct emissions cuts, and over the quality of the credits it approves.