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イタリア、CDR本格展開で2050年ネットゼロ達成可能 カーボンギャップ新報告書、政策遅延が最大リスクと警鐘

2026.04.30 読了 約6分
イタリア、CDR本格展開で2050年ネットゼロ達成可能 カーボンギャップ新報告書、政策遅延が最大リスクと警鐘
出典:イメージ

カーボンギャップ(Carbon Gap)とB3カーボン(B3 Carbon)は2026年4月20日、イタリアにおける炭素除去(CDR)導入可能性評価報告書(Carbon Removal Readiness Assessment:CRRA)を公表した。

同報告書は、イタリアが多様な炭素除去手法を組み合わせて展開すれば2050年までにネットゼロを達成可能と結論づける一方、政策不確実性と気候モメンタムの減速が、決定的な時期に進展を遅らせるリスクを孕むと警告した。

残余排出量68~100百万トン、CDRなしには到達不可能

イタリア政府の長期戦略(Long-Term Strategy:LTS)によれば、深層的な排出削減策を実行しても、2050年時点で年間68~100百万トンのCO2残余排出量が残ると見込まれる。1990年比でみるとイタリアの2023年の温室効果ガス(GHG)排出量は土地利用・土地利用変化・林業(LULUCF)を除き385百万トンで、現行政策のままでは2050年までに気候中立への直線軌道を約60%超過する見通しだ。

報告書は、この残余排出量を相殺するための炭素除去(CDR)能力をイタリアが物理的・技術的に保有していると評価。理論上の最大ポテンシャルは年間233百万トンに達するが、政治・経済・社会的制約を加味した現実的な3つのシナリオを提示している。

  • 保守的(Conservative)シナリオ
    2050年に年間約18百万トンの炭素除去(CDR)に留まり、自然吸収源35百万トンを加えても合計53百万トンと、ネットゼロには不十分
  • 基準(Reference)シナリオ
    年間約57百万トンの炭素除去(CDR)と47百万トンの自然吸収源で、合計104百万トン
  • 野心的(Ambitious)シナリオ
    年間91百万トン超の炭素除去(CDR)と47百万トン超の自然吸収源で、合計約139百万トン。ネットネガティブを実現

北部は技術系CDR、中南部は自然由来

報告書の特徴は、CDR展開を単なる技術ポテンシャルではなく「地理・ガバナンス・社会的受容性」の三位一体で捉える点にある。

イタリア北部、特にラベンナ周辺の産業集積地は、既存の炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトと新興のバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)案件を活用した技術系CDRに適している。一方、中部・南部は土壌炭素管理、アグロフォレストリー、生態系修復といった自然に基づく解決策(NbS)による地域経済振興と一体化した展開が有望視される。

エネルギーインフラに関しては、北部のラベンナ炭素回収・貯留(CCS)ハブが既に2024年から年間25,000トン規模のパイロット注入を開始済み。2030年までに年間4百万トン、2035年までに12百万トン、2040年以降は16~20百万トン規模に拡大する計画で、累計貯留容量は515百万トンと見積もられている。エニ(Eni S.p.A.)とスナム(Snam)が主導する同プロジェクトは、フランスからのCO2輸入(カリスト・プロジェクト)も視野に入れる欧州南部の脱炭素ハブとして位置づけられる。

公衆受容性、自然系には支持・大規模技術系には懐疑

ステークホルダーインタビューと市民パネルの結果は、CDR手法ごとの社会的受容性の差を浮き彫りにした。植林、土壌炭素隔離、湿地復元といった自然由来手法は、生物多様性や農村経済へのコベネフィットから強い支持を得た。バイオ炭と岩石風化促進(ERW)も、循環経済との親和性から比較的好意的に受け入れられている。

これに対し、大規模な直接空気回収・貯留(DACCS)と海洋アルカリ度強化(OAE)は、コスト・エネルギー消費・生態系リスクへの懸念から懐疑的に受け止められた。市民パネルでは「汚染者負担の原則」への支持が顕著で、CDR展開コストを高排出企業が負担すべきとの見解が多数を占めた。

ボトルネックは地質学的CO2貯留容量

報告書は、CDRスケールアップの最大の制約要因が地質学的なCO2貯留容量であると指摘する。シナリオ別の年間注入容量は2050年時点で、保守的14百万トン、基準44百万トン、野心的74百万トンと推計される。

しかし、産業界からの炭素回収・貯留(CCS)需要だけで2030年に年間27百万トン、2040年に34百万トン、2050年に41百万トンが見込まれており、ラベンナハブのみでは到底まかなえない。野心的シナリオの実現には、ヨニオ(Jonio)、ジェラ(Gela)、深部塩水帯水層(深さ800メートル以上)といった追加サイトの早期特性化と認可が不可欠だ。

政策フレームワークの断片化が最大の障壁

EUレベルでは欧州気候法、Fit for 55パッケージ、炭素除去・炭素農業認証フレームワーク(CRCF)、欧州排出量取引制度(EU ETS)イノベーション基金などが整備されているが、イタリア国内には専門的なCDR国家戦略が不在であり、国家気候法も制定されていない。

許認可手続きの分断、複雑な環境影響評価(EIA)、省庁・地方自治体間の調整不足が共通の障害として指摘された。投資家のリスク低減策(差金決済契約:CfD等)も検討段階に留まる。エコ(ECCO)など市民社会からは、化石燃料依存を温存させかねないCCS優先姿勢への批判も上がっている。

展開コストは2050年に年間8.2~260億ユーロ規模

シナリオ実現に必要な年間コストは、保守的シナリオで2030年4億~19億ユーロ(約660億~3,135億円)、野心的シナリオで2050年に82億~260億ユーロ(約1兆3,530億~4兆2,900億円)と試算される。これはイタリアの現行GDPの約1~1.2%に相当する規模で、他の主要なエネルギー支出と同等水準にある。

短期的には、土壌炭素管理、アグロフォレストリー、バイオ炭、バイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)といった成熟手法に重点配分すべきとされる。一方、直接空気回収・貯留(DACCS)など新興技術については、パイロットプロジェクト支援とCO2輸送・貯留インフラ整備を優先し、技術成熟後の本格展開に備える戦略が推奨されている。

イタリアの今回の評価は、日本企業にとっても示唆に富む。

第一に、地質学的CO2貯留容量がCDR展開の最終的なボトルネックとなる点は、貯留サイト開発が遅れる日本にも直接当てはまる。

第二に、産業集積地と農村部で異なるCDRポートフォリオを構築する地理的役割分担の発想は、北海道・東北のBECCS適地と西日本のJ-ブルークレジットや森林吸収源を組み合わせる日本のGX-ETS設計議論にも応用可能だろう。

第三に、社会的受容性とMRVの透明性こそが投資判断の決定要因になるという結論は、日本企業がボランタリーカーボンクレジット市場でCDR系クレジットを調達・活用する際の品質基準設計に直結する論点である。

参考:https://carbongap.org/italy-can-reach-net-zero-by-2050-by-scaling-its-cdr-sector/

関連タグ CDR 欧州
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。