経済産業省は2026年4月15日、INPEXと関東天然瓦斯開発の合弁会社であるメトロポリタンCCSに対し、千葉県九十九里沖における炭素回収・貯留(CCS)を目的とした探査掘削を許可した。
2024年に成立した二酸化炭素貯留事業法(CCS事業法)に基づく初の本格的な掘削許可案件となり、日本が掲げる2030年代前半の商用CCS開始に向けた実装段階の起点となる。
今回承認された「首都圏CCSプロジェクト」は、日本製鉄東日本製鉄所君津地区をはじめとする京葉工業地帯の複数の産業排出源からCO2を回収し、パイプラインで輸送した上で九十九里沖の海底下に貯留する一貫スキームである。経済産業省が2025年9月に九十九里沖を「特定区域」に指定し、その後の探査掘削権の公募を経て、メトロポリタンCCSが事業実施主体に選定された経緯を持つ。
報道ベースの事業規模では、初期段階で年間120万〜130万トンのCO2貯留を見込み、将来的には年間500万トン規模への拡張可能性が指摘されている。最終投資決定(FID)は2027年度に予定されているとされ、商用化フェーズに向けた本格的な経済性評価がこれから本格化する。
掘削はジャッキアップ型掘削バージを用いて段階的に2本の井戸を掘進する計画である。第1坑井「九十九里沖A(仮称)」は陸地から約5キロメートル沖合、海面下約1,900メートルまで掘削し、所要期間は約4カ月を見込む。第2坑井「九十九里沖B(仮称)」は約13キロメートル沖合、海面下約1,600メートルを目標とし、約3カ月の期間を予定する。
評価対象とする地層は、上総層群内の大原層をキャップロック、波花層から黒滝層に至る区間を貯留層およびキャップロックとして扱う。CCS事業の経済性と環境健全性を担保する上では、注入されたCO2が地層内で長期間にわたり安定的に保持される永続性の科学的検証が決定的に重要であり、本探査掘削はその技術的根拠を得るための基礎調査と位置付けられる。
本許可は、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)から委託を受けた「先進的CCS事業に係るエンジニアリング設計作業」の一環として実施される。同事業は、CO2の分離・回収から輸送・貯留までを含むバリューチェーン全体の事業性評価および設計作業を支援する枠組みであり、貯留可能性評価のための探査掘削調査も対象に含まれる。
CCS事業法は、貯留事業者の選定手続、保安規制、貯留地の長期管理責任などを包括的に規定した法制度として2024年に整備された。今回の許可は同法施行下で初の本格的な探査掘削許可となり、以後の特定区域指定および事業者選定の参照モデルとなる可能性が高い。
メトロポリタンCCSは、掘削バージの設置および掘削作業開始に先立ち、周辺海域で操業する漁業関係者に対して作業範囲および留意事項の説明を実施するとしている。掘削期間中は警戒船を配備し、近接航行する船舶との安全距離を確保する方針である。地元自治体や関係機関との合意形成は、CCS事業の社会的受容性を確保する上で不可欠な要素となる。
本件は、CCS事業法下で実施される初の本格的探査掘削として、国内CCSプロジェクト全体の試金石となる。
鉄鋼・石油精製・石油化学といったハード・トゥ・アベイト領域では、カーボンクレジットによる相殺に依存しないCCSベースの直接削減がネットゼロ達成の必須要素となるため、年間500万トン規模への拡張可能性は京葉工業地帯のみならず首都圏排出源全体の削減オプションとして極めて重要な意味を持つ。
一方、CCSによる貯留量を将来的に炭素除去(CDR)型カーボンクレジットとして認証・流通させる制度的可能性も論点である。ただしCCSは原則として「回避」ではなく「貯留」を担う技術であり、化石燃料由来排出源に適用される場合は除去ではなく回避系に分類される点に留意が必要となる。
永続性の検証データ蓄積、MRV(測定・報告・検証)体制の精緻化、第三者検証機関による方法論整備が、CCSの商用化と国際カーボンクレジット市場との接続の可否を左右することになる。