ノルウェーの石油・ガス大手バール・エナジー(Vår Energi)、エンジニアリング企業アーカー・ソリューションズ(Aker Solutions)、液化CO2海上輸送を手掛けるクヌッツェン・NYK・カーボン・キャリアーズ(Knutsen NYK Carbon Carriers、以下KNCC)の3社は、北海でのCCSプロジェクト「トゥルードヴァング(Trudvang)」の事業化に向けた覚書(MoU)を締結した。
トゥルードヴァングは、北海ノルウェー領海内のスレイプネル(Sleipner)ガス田東方に位置するウトシラ層を貯留サイトとして利用する。ウトシラ層は1996年からスレイプネル事業で約30年にわたりCO2注入の実績を積み上げてきた塩水層であり、長期貯留性能の知見が蓄積されている地層である。
3社の役割分担は明確に区分されている。バール・エナジーが操業者として貯留ライセンスEXL007を保有し、全体を統括する。アーカー・ソリューションズはノーザンライツ(Northern Lights)等で蓄積した海底システム設計とエンジニアリング知見を提供する。KNCCはクヌッツェン・グループと日本郵船の合弁企業であり、独自の中圧・高圧液化CO2輸送技術と専用カーゴを供給する役割を担う。
貯留ライセンスEXL007の出資比率は、バール・エナジーCCSが40%、INPEX Idemitsu Norge(INPEXと出光興産のノルウェー合弁法人)が30%、ストアエガ・ノルゲ(Storegga Norge)が30%となっている。MoUは3社(バール・エナジー、アーカー・ソリューションズ、KNCC)間の事業開発協業に関するものであり、ライセンス出資構造とは別枠の枠組みである点に留意が必要である。
事業計画では、2029年の操業開始時点で年間200万トンの注入を見込み、将来的に年間2,000万トン超までスケールアップする想定が置かれている。注入プラットフォームは無人化を志向し、海底システムと組み合わせて環境負荷とコストを抑制する設計とされる。CO2輸送方式についても中圧・高圧の双方を比較検討するほか、CO2キャリアから貯留サイトへの直接洋上注入という選択肢も評価対象となっている。
先行するノーザンライツは3隻目の液化CO2輸送船を投入し、生物起源CO2の注入を開始するなど運用フェーズに入っている。デンマーク領海のグリーンサンド(Greensand)など他の北海CCSプロジェクトも段階的に進展している。トゥルードヴァングはこれら既存・進行中プロジェクトに並ぶ経路として、欧州産業排出者向けの貯留容量と輸送経路の選択肢を増やす機能を担う位置づけと読み取れる。
事業の成否を左右するのは、欧州のセメント、鉄鋼、廃棄物発電(EfW)などハード・トゥ・アベイト領域からの実需確度である。ウトシラ層の地質的実績と無人プラットフォーム等のコスト最適化設計は商業化の足場となる。ただし現時点ではMoU段階に留まり、最終投資決定(FID)や顧客との長期引取契約の状況は明らかにされていない。
一方で、北海CCSの実需はEU ETS(欧州排出量取引制度)の価格水準とCBAM等の関連政策の方向性に依存するとの慎重論も根強く、複数プロジェクトの並走が中期的に貯留容量の供給過剰に転じるリスクを指摘する見方もある。
なお、操業者であるバール・エナジー自身は、2030年スコープ1のカーボンニュートラル達成、2024年からのスコープ2排出ゼロ、上下流輸送のカーボンニュートラル化を掲げており、その達成手段としてCCS投資と並行してボランタリーカーボンクレジット市場での認証カーボンクレジットを残存排出のオフセットに充当する方針を明示している。化石燃料生産者がCCS投資とカーボンクレジット購入を組み合わせて自社のネットゼロ経路を設計する構成例として、本件は欧州側の「やり方」を読み取る材料にもなる。
日本市場の観点で本件において着目すべきは、貯留ライセンス出資(INPEX Idemitsu Norge)と海上CO2輸送(KNCC経由の日本郵船)という、北海CCSバリューチェーンの上流(貯留権益)と中流(輸送)の双方に日本資本が組み込まれている点である。
日本国内のCCSは、先進的CCS事業の選定とCCS事業法の運用整備が進む初期段階にあり、商業実装の経験値はなお限定的である。ノーザンライツに続く北海二例目の主要プロジェクトに上流・輸送の双方で関与することは、国内CCS本格化局面に向けた技術・運用ノウハウの先行確保として戦略的に好例と評価できる。
日本企業の海外CCSへの関与は資源権益型の延長から「脱炭素インフラ権益」へと意味合いを変えつつあり、その動向は引き続き注視が必要である。