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デンマーク、アールボー・ポートランドのCCS事業に約7,060億円補助 入札不調と目標縮小が映す欧州CCS政策の現実

2026.05.10 読了 約4分
デンマーク、アールボー・ポートランドのCCS事業に約7,060億円補助 入札不調と目標縮小が映す欧州CCS政策の現実
出典:Aalborg Portland

2026年5月、デンマーク政府は同国最大の単一排出源であるセメント大手アールボー・ポートランド(Aalborg Portland)に対し、CCS事業向け補助として総額287億デンマーククローネ(約7,060億円)を拠出する正式契約を締結した。

デンマークエネルギー庁(DEA)の発表によれば、アールボー・ポートランドは2030年から年125万トンのCO2を回収・輸送・貯留する義務を負う。デンマークの気候政策における過去最大級の単一投資となる一方、入札過程における参加者の急減と当初目標からの大幅縮小は、欧州CCS政策が直面する構造的課題を浮き彫りにした。

なお本件は、同社が2025年3月にEUイノベーション基金(EU Innovation Fund)との間で先行的に締結した別枠補助(16億クローネ、約394億円)に続く、デンマーク政府CCSファンドからの本格契約である。両者は別資金源であり、ACCSIONプロジェクトと総称される一体のCCSバリューチェーン構築を支える。

欧州初の本格陸上CCSバリューチェーン

ACCSIONプロジェクトは、グレーセメント・ホワイトセメント両ラインからのCO2排出を一括回収する欧州初の本格的な陸上CCSバリューチェーンとして設計されている。回収されたCO2はパイプラインでアールボー港の陸上貯留サイトへ輸送され、地下に恒久貯留される。設備敷地は50,000平方メートルで、欧州最大級のCCS設備となる見込みである。

副次効果として、回収プロセスからの排熱はアールボー市内の地域熱供給に供され、年間約19,100世帯分の熱需要を賄う。これにより追加で年10万トン相当のCO2排出回避効果が見込まれる。アールボー・ポートランドはデンマーク全体の排出量の約4%を占めており、本件の稼働によって同社は2030年にもScope 1排出量ベースでカーボンニュートラルを達成する見通しである。

入札参加者の急減と目標縮小

注目すべきは、補助規模の大きさそのものよりも、入札過程の脆弱性である。DEAが公表した経緯によれば、当初関心を表明した企業は16社に上ったが、正式入札段階では10社、最終的に提案を提出したのは2社のみとなった。多くの企業が辞退した理由として、操業開始期限の遅延に対する厳しい違約金規定など、契約条件の重さが挙げられている。

最終局面で残った競合候補ガイア・プロジェクトCo(Gaia ProjectCo、ヴェストフォアブレンディング〔Vestforbrænding〕およびコペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズ〔Copenhagen Infrastructure Partners〕が出資)の提案は要件未達と判定され不採択となった。DEAは縮小契約をフォールバックとして提示したが、ガイアはこれも辞退している。結果としてアールボー・ポートランドが事実上の単独受注者となった。

当初想定された貯留量も縮小された。デンマーク政府はCCSプログラム全体で年230万トンのCO2削減を見込んでいたが、実現する契約量は125万トンにとどまり、▲46%の下方修正となった。デンマークの地域熱供給業界団体(Dansk Fjernvarme)からは、エネルギー部門にCCS導入の機会が及ばないことへの懸念が表明されている。一方で、産業横断的なCCS網構築には、まずは特定の大規模排出源への政府主導の集中投資から着手すべきとの見方もある。

欧州CCS政策の中での位置づけ

本契約は、欧州が気候目標達成に向けてCCS投資を加速させる潮流の一例として読み取れる。デンマーク国内ではInno-CCUSをはじめとする複数のパイロットが並走し、再生可能エネルギー拡大と並んでCCSが必要との認識が広がっている。EU全体でも、各国政府が補助制度やリスク分担の仕組みを試行錯誤している段階にある。

CCS事業環境への示唆

デンマーク事例は、ハード・トゥ・アベイト産業のCCS事業が公的補助の長期予見性なくして成立せず、契約条件の設計次第では民間参加が枯渇しうる脆弱性を併せ持つことを示した。

日本の先進的CCS事業の支援設計においては、違約規定・補助予見性・リスク配分の柔軟性が応札者層の確保に直結する論点であり、デンマークの不調を反面教師とすべきである。ただし本件はデンマーク特有の排出源集中度(単一企業で国家排出の約4%)と地域熱供給インフラとの近接性に強く規定されており、これを汎用モデルとして援用するには慎重さを要する。

日本のCCS政策は、固有の産業構造と地域分散性を前提とした独自設計が問われる段階にある。

参考:https://www.aalborgportland.dk/aalborg-portland-underskriver-aftale-med-eus-innovationsfond-om-milliardstoette-til-co2-fangst/

関連タグ CCS 欧州
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。