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RMI、CDR需要の3類型を提示 ボランタリー一極集中から需要側再設計への転換点

2026.05.21 読了 約7分
RMI、CDR需要の3類型を提示 ボランタリー一極集中から需要側再設計への転換点
出典:イメージ

ロッキーマウンテン研究所(Rocky Mountain Institute、RMI)は2026年5月14日、CDRの需要トレンドに関するブリーフ「Not Just Voluntary Credits: Three CDR Demand Trends to Support and Scale」を公表した。ボランタリーカーボンクレジット市場の構造的限界が顕在化するなかで、需要側の再設計を業界に迫る内容である。

ブリーフは、計画段階にある高耐久性CDR容量の80%超が追加的なオフテイク契約と資金コミットメントなしには実現に至らないとの推計を提示し、需要不足がプロジェクトの停滞、企業の破綻、業界全体の学習機会の喪失を招くと警鐘を鳴らした。

2050年に年間ギガトン規模のCDR展開を達成するためには、需要源の多様化が不可欠である。これまでCDR需要はボランタリーカーボンクレジット市場、それも一部の大手テック企業に偏在してきた。RMIはこの構造を「集中的かつ不均一」と評し、複数の需要経路を並行的に育成する必要性を強調している。

3つの需要トレンドの内訳

RMIは「誰が、なぜ、何に対して支出しているか」という3つの問いから需要構造を再整理し、現に勢いを増しつつある3類型を提示した。

RMIによるCDR需要分析フレーム|3つの問い

Q1

誰が支出しているか

政府/民間企業/フィランソロピー/個人消費者

Q2

なぜ支出しているか

排出量管理目的の自発的支出/非排出目的の自発的支出/排出規制対応/非排出規制対応

Q3

何に対して支出しているか

カーボンクレジット/実践・サービス/低炭素排出量製品/CDR副産物

この3軸の組み合わせから、ボランタリーカーボンクレジット購入以外の需要経路が体系的に抽出される構造になっている。

第一に、ボランタリーおよび規制駆動型のカーボンクレジット購入である。

フロンティア・クライメート(Frontier Climate)は2026年4月時点で180万トンを契約済み、4万5,000トンを納品済みであり、シンビオシス(Symbiosis)は2030年までに2,000万トンの自然由来CDRを契約する目標を掲げる。政府調達ではカナダが2030年までに1,000万カナダドル(約11億円)のCDRクレジット購入を約束し、2026年3月に競争入札を開始した。コンプライアンス市場では、日本のGX-ETSが排出量の最大5%をCDRクレジットでカバーすることを認めており、英国は特定のCDRクレジットの統合を表明している。一方、カリフォルニア州SB 643は5,000万ドルのCDR資金を提案したものの財政制約により拒否権が発動された。

第二は、CDRをバリューチェーンに組み込んだ低炭素排出量製品への需要である。

Buy Clean政策、EU CBAM(炭素国境調整措置)、製品規格、製品ラベリングといった製品レベルの炭素会計を通じて、CDRを内包する差別化製品が市場で評価される経路が想定される。EU CBAMは2023年に移行期間に入り、2026年から本格運用に移行する。現行のCBAM枠組みは製品レベルでのCDR算入を明示的に認めていないが、製品ラベルや認証制度の発展により、将来的にコンプライアンス駆動型のCDR需要を生む可能性がある。

第三が「Flip the Script」と呼ばれる、CDRが副産物・共産物となる製品・サービスへの需要である。

米国西海岸では森林間伐から発生するバイオマスをバイオ炭やバイオオイルの原料に転用し、山火事リスク軽減と廃棄物処理を同時に達成する試みが進む。米国中西部ではボルテッド・ディープ(Vaulted Deep)のグレートプレーンズ施設がバイオソリッド廃棄物の地中処分とCDRを統合し、PFAS規制で逼迫する自治体の廃棄物処理に新たな選択肢を提供している。カナダでは鉱山尾鉱の表層鉱物化が、有害廃棄物管理とCDRの両立を可能にする選択肢として浮上した。ブラジルでは強化風化(ERW)が酸性土壌のpH管理と農業生産性向上を兼ねる手法として研究が進んでいる。

追加性原則をめぐる緊張

RMIが提示した3類型のうち、特に第三の「Flip the Script」モデルは、CDR業界の根本原則との緊張関係を内包している。本来、ボランタリーカーボンクレジットの品質要件である追加性は、気候純益を主目的とする活動でなければ成立しがたい。CDRが副産物として位置付けられる設計では、買い手は廃棄物処理や山火事防止といった非気候便益に対して支払っており、CDRがその活動の意思決定を左右したか否かは検証が難しい。

もっとも、追加性を厳格に適用すれば需要源が枯渇するという反論もある。RMI自身が指摘するとおり、ボランタリーカーボンクレジット需要は桁違いに拡大する見込みが立たず、マイクロソフトの購入減速はその限界を象徴する。需要源を非気候予算に拡張することは、CDR容量の早期確保という観点では合理性を持つ。本ブリーフは追加性論争に正面から踏み込んでおらず、需要拡大の戦術論として副産物モデルを提示している。

制度的需要の射程

コンプライアンス需要の側面では、日本のGX-ETSは本ブリーフが描く構図のなかでも早い段階で具体的な制度設計に踏み込んだ事例として位置付けられる。EU ETSは現時点でCDRクレジットを認めていないが、欧州委員会による統合検討が進んでおり、本格運用に移行するCBAMと併せて、規制駆動型需要の実装段階に入る。

CDR需要3類型と日系企業の対応領域

需要類型 日系企業への近接性 主要な経営課題 時間軸
トレンド1
クレジット購入
GX-ETS対象企業の直接的対応領域 5%枠を巡る高耐久性CDR調達競争への参入判断 短期|GX-ETS本格運用に同期
トレンド2
差別化製品
EU向け輸出を行う鉄鋼・セメント・肥料・電力等のCBAM対象産業 製品レベル炭素強度管理体制の整備、EPD取得 中期|2026年CBAM本格運用以降
トレンド3
Flip the Script
海外プロジェクト投資能力を持つ産業横断的プレーヤー 追加性論争を踏まえたデューデリジェンス、新規ビジネスモデル設計 探索段階|事業機会の見極め

編集部作成

日系企業にとって、GX-ETSの5%上限は当面のCDRクレジット需要を規定する制度的天井であると同時に、高耐久性CDRの調達競争への参入を促す圧力でもある。EU CBAMへの対応を迫られる輸出企業は、製品レベルでの炭素強度低減という第二の経路にも備える必要が生じる。

編集デスクの視点

本ブリーフは、CDR需要をボランタリーカーボンクレジット市場の枠内で議論する従来の構図から決別し、需要側の再設計を業界全体の課題として再定義した点で戦略的意義が大きい。マイクロソフト一社の購買行動が業界全体を揺るがす脆弱性は、需要源の構造的多様化なしには解消されない。

ただし提示された3類型は、それぞれ性格を異にする。クレジット購入は既存の枠組みの量的拡張であり、差別化製品需要は製品レベル炭素会計と規制基盤の成熟を要件とする中期的経路である。一方「Flip the Script」モデルは追加性原則との緊張をはらみ、CDR定義の希薄化リスクを内包したまま需要拡大を優先する選択でもある。

日系企業にとっては、GX-ETSの5%枠を起点としたコンプライアンス需要への対応が最も近接した経営課題となる。同時に、EU CBAM本格運用を視野に入れた製品レベルの炭素強度管理、そして総合商社・素材産業を中心とした「Flip the Script」型ビジネスモデルへの参画機会の探索が、3類型それぞれに対応した戦略的検討事項として並行する。需要側再設計の局面において、買い手側の制度・産業構造が需要創出能力を持つか否かが、CDR市場の地理的・産業的勢力図を左右する論点となる。

参考:https://rmi.org/not-just-voluntary-credits-three-cdr-demand-trends-to-support-and-scale/

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。