チリ・エネルギー省が5月、2026〜2030年を対象とする政策文書「エネルギーロードマップ」を公表した。競争力ある電力料金、供給の安全性、エネルギー転換、インフラ整備、投資促進、制度改革の6本柱で構成され、うちEje5「投資と開発の原動力としてのエネルギー」の一施策として、エネルギー部門における排出量取引制度(ETS)のパイロット導入と、パリ協定6条を通じた追加的な国際資金1億ドル(約161億円)の動員目標が盛り込まれた。
南米地域では排出量取引制度の検討や部分導入が近年広がっており、今回の発表もその延長線上に位置づけられる。
ロードマップが定める27のアクションのうち、Acción21「脱炭素化のための市場」が該当施策にあたる。エネルギー部門を対象にETSパイロットを設計・実施し、対象範囲の設定、排出枠の割当、MRV、取引の仕組みといった主要な構成要素を検証するとしている。実施期間は2026年から2030年で、規制と制度運用能力の強化を通じて、将来的な制度拡張に向けた知見を蓄積する狙いだ。
同じくAcción21には、石炭火力の転換、系統から独立した地域の脱炭素化、産業・鉱業分野での技術更新といった排出削減プロジェクトへの技術支援プログラムが盛り込まれている。この技術支援を通じ、パリ協定6条に基づく炭素市場から2026年までに1億ドル(約161億円)の追加的な国際資金を動員するとしている。
チリでは2025年に環境評価を通過したエネルギー投資が197億ドル(約3兆1,700億円)、2025年末時点で環境評価待ちの案件が476億5,000万ドル(約7兆6,700億円)に上る。これらの投資規模と比べると、1億ドルという6条資金動員目標は小さい。一方で、この数字はあくまで技術支援プログラムを通じた追加動員分であり、ロードマップ全体における6条活用の到達点ではなく出発点だと捉えることもできる。
ロードマップは、ETSパイロットの制度設計を今後数年かけて具体化するとしているが、対象範囲や排出枠の割当方法といった核心部分は現時点で示されていない。1億ドルという資金動員目標の規模感をどう評価するかは、この制度設計がどこまで具体化するかに左右される部分が大きい。
チリの発表は、南米地域における排出量取引制度導入の流れに新たな事例を加えるものであり、地域の潮流を大きく変えるものではない。
評価の軸になるのは1億ドルという数字そのものよりも、ETSパイロットの制度設計とパリ協定6条プログラムの具体化であり、今回のロードマップは制度構築の到達点ではなく出発点として位置づけられる。