米国のテルム・ソリューションズ(Therm Solutions)は、メキシコの商業用冷蔵施設3か所でハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒を排除するプロジェクトについて、米国アメリカン・カーボン・レジストリー(American Carbon Registry, ACR)の先進冷凍システム方法論に基づきカーボンクレジットを発行した。同方法論の適用はメキシコ初である。3施設合計の気候影響は82,000トンCO2e超と公表されている。
対象施設はグアダラハラ、モンテレイ、ビジャグランに所在し、いずれも食品流通インフラの主要拠点に位置する。テルムによれば、HFCを使用しない冷凍機器に置き換えることで、機器寿命を通じた漏洩排出を回避すると同時に、需要が拡大する新興国の冷蔵保管能力を増強する設計となっている。
モントリオール議定書キガリ改正のもと、メキシコは第5条(A5)国に分類される。A5国は先進国と比べてHFC削減義務の発効時期が遅く、規制圧力が相対的に弱い期間が長い。この規制空白期間において、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)を通じた資金供給が、規制義務の発効に先んじてHFC機器の置き換えを促す経路として機能する構図である。
テルムCEOのフリッツ・トローラー(Fritz Troller)は、スーパーポルータント冷媒が世界の食料流通システムに組み込まれている現状を指摘し、排出源においてその使用を断つアプローチを強調している。同社は冷媒に加えメタンを含む食料サプライチェーン上のスーパーポルータント全般を事業対象としており、本件もその一環に位置付けられる。
ICVCMのコアカーボン原則(CCPs)や買い手側の品質ガイダンスの整備が進むなかで、近年のVCM言説は除去系カーボンクレジットを優位に位置付ける傾向が強い。永続性、追加性、計測可能性の各論点において、回避系よりも厳格な基準を満たしやすいと評価されてきたためである。
ただし、スーパーポルータントを対象とする回避系プロジェクトは、回避系のなかでも独自の位置を占める。
HFCの地球温暖化係数(GWP)はCO2の数百倍から数千倍に達し、機器寿命を通じた漏洩排出を排除することで得られる排出回避量は単位投資あたりの気候影響が大きい。除去系が物量・コスト面で当面の需要を充足し得ない期間において、スーパーポルータント対策型の回避系カーボンクレジットは、買い手の品質基準を満たしやすい数少ない回避系カテゴリのひとつとして相対的な存在感を強めている。
一方で、回避系カーボンクレジット全般に対する批判は本件にも一定程度当てはまる。
HFC機器の置き換え自体は技術的に既存解が存在しており、追加性の立証はプロジェクトごとの財務分析に依存する。さらにA5国でも将来的にはキガリ改正に基づく規制義務が発効するため、規制下削減との二重カウントを回避する設計の妥当性が問われる。買い手側は、レジストリの方法論要件と将来の規制動向の重なりを精査する必要がある。
本件は、カーボンクレジット品質論において除去系優位の風潮が強まる近年の流れに対し、回避系のなかでもスーパーポルータント対策型が独自の擁護論を持ちうることを示す事例である。
HFCのGWPの絶対値に加え、新興国の食料サプライチェーンの冷蔵能力増強というコベネフィットが、単なる排出回避を超えた価値を付与する点が本件の核心である。除去系の物量制約が当面続く現実を踏まえれば、回避系全体を一括して劣後扱いする評価姿勢は精緻さを欠く。
コベネフィットの定量化手法は依然として標準化が遅れているものの、品質と社会的便益の両軸で擁護可能なカテゴリは、回避系の評価軸を実質的に細分化させている。