カナダのクリーンテック企業キュラ・クライメート(CURA Climate)と、米国を拠点とする直接海洋回収(DOC)スタートアップのキャプチャー(Captura)は3月17日、セメント製造プロセスの抜本的な低炭素化に向けた技術提携を発表した。
DOC向けに開発されたキャプチャーの独自技術「バイポーラ膜(BPM)」をキュラの電気化学的セメント製造システムに組み込むことで、世界のCO2排出量の約8%を占めるセメント産業の脱炭素化を加速させる狙いだ。炭素除去(CDR)技術を重工業プロセスへ応用した事例として注目される。
両社はカナダ・カルガリーの施設において、過去7カ月間にわたり実証試験を実施。キャプチャーの次世代バイポーラ膜を用いたキュラの電気化学的セメント製造システムにおいて、「これまでに評価されたいかなる商用膜と比較しても史上最低の動作電圧」を達成したと発表した。
低電圧駆動の実現はエネルギー消費の劇的な削減を意味しており、商用スケールにおける運用コスト競争力を大幅に高めるものである。また、キャプチャーの膜は従来の湿式膜とは異なり乾燥状態での輸送(ドライ出荷)が可能なため、サプライチェーンの簡素化と現場設置の迅速化にも寄与する。
キュラの電気化学的セメント製造技術は、石炭などの化石燃料を用いた高温焼成プロセスを不要とし、電気化学的手法で石灰石を処理することで、セメント製造に伴うCO2排出量を最大85%削減できる可能性を持つ。
さらに、このプロセスで生成されるCO2ストリームは不純物が少なく高純度であるため、炭素回収・貯留(CCS)や炭素回収・利用(CCU)への接続が容易である。高純度CO2は高品質なカーボンクレジット創出とも直結しており、企業の排出権取引戦略における資産価値を高める要因となる。カリフォルニア州パサデナのキャプチャー製造拠点から供給される膜技術は、キュラが計画するパイロットプラントの展開を後押しする見通しだ。
今回の提携の本質は、本来「海洋や大気からCO2を除去する」ために開発されたCDR技術が、既存の重工業プロセスの排出削減を根本的に効率化する「触媒」として機能し始めた点にある。異分野のCDR技術を産業プロセスへ転用するこのアプローチは、巨額の設備更新コストを避けながら脱炭素化を進める現実的な戦略として、セメント業界のみならず幅広い重工業セクターに対する示唆を持つ。
両社は今後、ラボ段階から実証(パイロット)フェーズへ移行し、低炭素セメントの早期商用化を目指す方針を示している。
日本のセメント業界では、2050年カーボンニュートラル達成に向けて炭素回収・利用・貯留(CCUS)への投資を強化しているが、技術コストと商用規模化の壁はなお高い。
今回のキュラ・キャプチャー連合が示す「CDR技術の産業転用+高純度CO2によるカーボンクレジット収益化」モデルは、自社開発に固執せず、海外CDRベンチャーが持つ要素技術(膜・触媒)を既存製造ラインにレトロフィットする戦略の有効性を裏付けている。