本文へスキップ
最新ニュース
海外ニュースNEW

衛星×AIで世界初の海草藻場分布図 ブルーカーボンのMRVに前進

2026.06.30 読了 約4分
衛星×AIで世界初の海草藻場分布図 ブルーカーボンのMRVに前進
出典:ASU

アリゾナ州立大学(ASU)の研究チームが、衛星画像とAIを用いて世界の海草藻場を網羅した高解像度の分布図を初めて作成し、2026年6月24日付のNature誌に発表した。藻場の堆積物表層に、これまで体系的に把握されてこなかった規模の炭素が蓄えられていることが裏づけられた。

筆頭著者のリー・ジウェイ(Jiwei Li)助教は、海草藻場を海中の熱帯雨林になぞらえ、沿岸域の食物網を支える基盤だと位置づける。

衛星画像とAIによるマッピング手法

チームはまず、世界各地の協力者による潜水調査で海草・岩・サンゴ・藻類・砂などを実地確認し、各地点に座標を付与した。この実測データを正解として衛星画像と突き合わせ、海草を判別するAIモデルを学習させている。

学習済みモデルで数百万枚の衛星画像を解析し、全球の分布図を構築した。ASUのスーパーコンピュータが解析基盤となっている。

検出単位は10m四方で、その範囲に海草が密に生えているか疎らかを判別する。検出可能な水深は衛星側の制約から30mまでにとどまる。海草の多くは光合成のため水深30m以浅に分布するが、40mまで生育する種もあり、現行のモデルでは深部の藻場を取りこぼす。

堆積物に眠る炭素

別研究による堆積物表層30cmの炭素量データと分布図を組み合わせ、研究チームは世界の海草藻場が約6億4,000万トン(炭素ベース)を貯留すると推計した。CO2に換算すると、自動車約5億台の年間排出量に相当する規模となる。

ただしこの数値は表層30cmに限った値である。堆積物は数メートル単位でさらに深く続く場合があり、実際の貯留量はこれを大きく上回るとチームは留保を付している。今回の推計は保守的な下限値と読むのが妥当だ。

喪失の進行と地理的な偏在

2019-2020年と2023-2024年の衛星データを比較したところ、この期間に約4%の海草が失われた。年あたり約1%のペースである。喪失の多くは中国沿岸の開発やフロリダの肥料由来汚染といった人為的要因と関連していた。バハマを襲ったハリケーン・ドリアンや豪州の海洋熱波など気候要因の関与も指摘されるが、因果の特定にはより長期のデータが要るとされる。

分布には強い偏りがある。世界の海草の約70%が米国、バハマ、キューバ、豪州、インドネシアの5カ国沿岸に集中していた。

保護の網はこの偏在を捉えきれていない。海洋保護区(MPA)内に位置する海草は約21%にとどまり、確認された喪失の約80%はMPA外で起きていた。半数超が未保護のまま残されており、研究に関与したエリック・ディナースタイン(Eric Dinerstein)は、昆明・モントリオール生物多様性枠組の30×30目標における優先対象になり得ると指摘する。

回復の速さという特性

海草には、損傷から数十年を要するサンゴと異なり短期間で回復するという特性がある。研究チームは、復元事業が奏功したロサンゼルス近郊の南湾と、水質改善が進んだキューバで藻場の増加を確認した。今回の分布図は、復元投資が最も効果を生む海域の特定を可能にする。

もっとも、回復が速いという性質は喪失も速いことと表裏一体であり、除去系カーボンクレジットに求められる永続性の観点では弱点にもなる。短期の蓄積と再放出を繰り返す炭素プールをどう評価するかは、ブルーカーボンクレジットの設計上の論点として残る。

編集部の視点

今回の成果の核心は、衛星画像とAIを組み合わせて全球の海草分布を体系的に観測する手法を確立した点にある。ブルーカーボンの定量化は現地調査への依存ゆえに高コストで断片的であり、これがクレジット組成の隘路だった。実測データで学習させたモデルを衛星画像に展開する手法は、dMRVを藻場のような観測困難な生態系へ広げる現実的な道筋を示したものとして位置づけられる。

ただし、測定の精度が上がることと、その炭素プールがクレジットとして成立することは別の問題である。今回の分布図が解くのは「どこに、どれだけあるか」という観測の課題であり、その藻場の維持が保全努力の結果なのかという追加性、回復の速い炭素がどれだけ固定され続けるかという永続性は、依然として方法論の側に委ねられている。観測の前進が、品質評価の前進と同義ではない点は押さえておきたい。

参考:https://news.asu.edu/20260624-environment-and-sustainability-first-complete-map-worlds-seagrass-offers-warnings-and-hope

関連タグ MRV ブルーカーボン
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。