日本とインドの二国間クレジット制度(JCM)の合同委員会が2026年6月8日、パリ協定6条に沿って制度を運用するための実施規則(Rule of Implementation、RoI)を採択した。環境省が6月25日に発表した。
また、同じ週の6月26日、インドカーボン市場協会(Carbon Markets Association of India、CMAI)が6条取引に特化した民間マーケットプレイス「Article 6 Carbon Bazaar」を立ち上げ、日印JCMを主軸に据えると公表している。
制度の枠組み確定と市場インフラの形成が、同時並行で進む構図となった。
RoIは合同委員会・事務局によるガバナンス、PINの確認から方法論承認、プロジェクト登録、バリデーション・検証、クレジット発行に至る手続き、SD実施計画・報告、登録時のクレジット配分、そして6条に基づく承認と相当調整を規定する。クレジット期間は更新を含めて最長10年。日本側割当分はITMOとして発行時点で承認され、相当調整はインド側が適用する。発行決定は提出から60日以内に下すと定めた。
環境省は今回の採択を「クレジットプロセスのための最初の手続きが整った」段階と位置づけ、詳細な手続きと様式についてはインド側と引き続き最終調整を行うと明記している。一方でCMAIは制度を「すでに運用段階に入った」と表現しており、両者の温度差は残る。実需を伴う取引が動き出すには様式の確定を待つ必要があるという見方もできるが、6条準拠のクレジット供給に向けた制度的な土台が整ったことは確かである。
CMAIが立ち上げた「Article 6 Carbon Bazaar」は、インドのプロジェクト開発者と国内外の民間バイヤー・公的機関・カーボン投資家を直接結ぶマッチング機能を中核に据える。ITMOの生成と移転を支援し、その供給先として日本のコンプライアンス市場であるGX-ETSを明示的に挙げている。中小規模の削減事業を商業的に扱える規模のポートフォリオへ束ねるアグリゲーション、ホスト国・バイヤー国双方の政府承認に向けたコンプライアンス準備、MRV体制構築の技術支援までを担う設計である。
この民間マーケットプレイスは、インドが今年前半に整備した政府主導の制度の上に乗る商業レイヤーという位置づけにある。2026年3月、エネルギー効率局(Bureau of Energy Efficiency、BEE)が政府運営のインドカーボン市場ポータル(ICMP)を立ち上げた。ICMPは国内のコンプライアンス型制度であるCCTSを運営する基盤インフラである。これに対しCMAIのマーケットプレイスは、国際取引と海外資本の流入に特化した市場接点として機能する。政府が制度の幹を、業界団体が商流を担う役割分担が見て取れる。
JCMという二国間の枠組みにこの市場インフラが接続することで、インドで創出される削減・吸収量がITMOとして日本のGX-ETSへ供給される経路が具体化する。RoIが配分と承認の手続きを定め、CMAI Bazaarが案件組成と取引執行を担う。制度と市場の両輪が並んだことで、インド産ITMOの調達ルートとしての輪郭が見えてきた。
本件は、6条クレジットの供給経路が制度と市場の両面から形を取り始めた事例として位置づけられる。
RoIが配分・承認・相当調整の手続きを定め、CMAIのマーケットプレイスが案件組成からMRV、取引執行までを担う。両者が同じ週に出そろったことで、インドで生成されるITMOが日本のGX-ETSへ流れる経路の骨格が見えた。ただし環境省自身が「最初の手続き」と位置づけるとおり、様式の確定とプロジェクト登録の実績はこれからであり、供給量が読める段階にはない。
注目すべきは、GX-ETSのコンプライアンス需要とインド産ITMOの供給がこのルートで直接結びつく点である。GX-ETSの本格稼働を控える日系企業各社にとって、JCMは6条準拠かつ相当調整済みのクレジットを調達する数少ない正規経路となる。CMAIのマーケットプレイスが日印JCMを主軸に据えたことは、インド側がこの供給チャネルに商業的な優先順位を置いたことを意味する。調達側の制度設計とインド側の市場整備がどこまで噛み合うかが、JCM経由のITMO調達の実効性を左右する。