本文へスキップ
最新ニュース
海外ニュースNEW

Gold StandardがOERフレームワークを公表、継続排出への資金責任で年最大17億ドルの気候資金を試算

2026.06.29 読了 約5分
Gold StandardがOERフレームワークを公表、継続排出への資金責任で年最大17億ドルの気候資金を試算
出典:Gold Standard

カーボンクレジット認証機関のゴールドスタンダード(Gold Standard)が6月25日、クライメートパートナー(ClimatePartner)およびピンホイール(Pinwheel)と共同で報告書「Ongoing Emissions — Taking Responsibility」を公表した。ロンドン気候アクションウィークに合わせた発表である。

報告書は、企業が脱炭素を進める過程で排出し続ける温室効果ガスに資金的責任を負う枠組みとして、Ongoing Emissions Responsibility(OER)を提示した。EU・米国企業がこの枠組みを採用すれば、年最大17億ドル(約2,750億円)の気候資金が動きうるとゴールドスタンダードは試算する。

OERはBVCM(バリューチェーン外の緩和)の発展形にあたる。今月公表されたSBTiのCorporate Net-Zero Standard 2.0がこの考え方を制度に組み込み、企業の取り組みをRecognised、Advanced、Leadershipの三層で認定する仕組みを導入した。

17億ドルという数字の出どころ

17億ドルは、EU・米国企業がSBTiの「Advanced」ベンチマークを適用した場合の試算値である。具体的には、経済全体の排出量の10%に対し1トンあたり20ドル(約3,230円)の拠出予算を当てはめた数字だ。ゴールドスタンダードはこれを確定値ではなく指標的な試算として示している。

この水準は、報告書が並べる炭素価格ベンチマークの中ではむしろ低い側に位置する。報告書はパリ協定整合価格を2030年時点で1トンあたり100〜400ドル、社会的炭素費用を約190ドル、大気からのCO2恒久除去費用を当面100〜200ドルと整理しており、SBTiの20〜80ドルという基準はこれらの下限に近い。17億ドルは、最も控えめな前提を置いた場合の市場規模ということになる。

裏を返せば、Leadership水準の80ドルや、パリ整合価格の上限が広く採用された場合、動く資金は桁を変えうる。本件の数字は床であって天井ではない。

VCM需要への含意

報告書は、カーボンクレジットの位置づけを補償から貢献へと明確に切り替えた。企業が自社の排出を相殺・中立化するためにクレジットを購入するのではなく、グローバルな気候目標への資金拠出としてクレジットを用いる。R&D、政策アドボカシー、生態系回復と並ぶ複数の手段のひとつ、という整理である。

この再定位はボランタリーカーボンクレジット市場の需要構造に直接効いてくる。近年、ネットゼロ整合性への懐疑からクレジット活用を控える動きが強まり、2025年にはカーボンクレジット無効化の40%超が匿名だったという。補償目的のクレジット購入が法的・評判リスクを抱える一方、貢献目的であれば排出の独占的所有を主張せずに済み、グリーンウォッシングの非難をかわしやすい

報告書がクレジットを継続排出責任を果たす主要メカニズムと明示している点は見逃せない。需要を萎縮させてきた懐疑論に対し、認証機関の側からクレジット活用の新しい正当化の筋道を示したかたちだ。

一方で、貢献アプローチが補償アプローチの言い換えに過ぎず、企業の排出責任を曖昧にするとの批判もある。報告書はこれに対し、価値連鎖の脱炭素目標を毎年再確認し、クレジット活用が内部削減を補完するものであって代替ではないと説明することを条件に挙げている。

2026年ヴィンテージ以降のパリ整合要件

クレジット品質の面では、2026年ヴィンテージ以降に明確な線が引かれた。報告書は、この時点以降のクレジットがベースライン設定、追加性、MRVの各面でパリ協定の目標に整合すべきだとする。具体的には、BAUを上回るベースライン設定、下方調整係数、追加性評価における規制余剰の考慮を求めている。

パーマネンスの扱いには踏み込んだ整理がある。報告書は、永続性が決定的に重要になるのは残余排出の最終的な中立化の局面であって、OERの貢献クレイムにおいてではないとした。非永続的な活動については耐久性戦略とリバーサルリスクの緩和で対応すれば足りる、という立場である。

この区別は、自然由来クレジットと技術由来CDRの役割分担に影響する。中立化を目的とするなら地中貯留のような長期固定が要件となるが、貢献を目的とするOERの文脈では、森林のような短期蓄積型の活動も耐久性管理を前提に位置づけられる。CDRについて報告書は、長期の脱炭素に向けた緩和ではない投資(R&D枠)として、また低リスクのエンジニアド除去のスケール支援として扱い、即時の中立化手段とは切り分けている。

ホスト国承認とコリ調整の論点も触れられている。パリ協定下では炭素プロジェクトの排出削減はホスト国がNDCの一部として計上するのが既定であり、6条のラベル付き・調整済みクレジットは供給制約が続くと報告書はみる。OERが補償ではなく貢献として設計されるのは、この二重計上リスクを回避する狙いとも整合する。

編集部の視点

本件は、企業の気候責任が補償から貢献へと軸足を移す動きを、認証機関とSBTiが制度面で揃えて後押しした事例として位置づけられる。SBTi CNZS 2.0への組み込みと三層認定の導入により、これまで信頼できるクレイム経路を欠いていたOERに公式のラベルが与えられた点が、実務上の意味を持つ。

資金フローの観点では、17億ドルは最も控えめな前提による床値であり、ベンチマーク水準の引き上げ次第で市場規模は大きく変わる。VCMの需要回復に向けた論拠が認証機関側から示されたことは、グリーンハッシングで停滞していた取引に方向性を与えうる。

ただしクレジット品質の面では、2026年ヴィンテージという時点が分水嶺となる。パリ整合要件を満たさないクレジットがOERの貢献クレイムに使えるかは、ベースラインと追加性、MRVの実装をどこまで厳格に運用するかに左右される。永続性をOERの文脈から切り離した整理は、自然由来クレジットの活用余地を広げる一方、中立化との境界をどう保つかという新たな論点を残す。

参考:https://www.goldstandard.org/publications/ongoing-emissions-taking-responsibility

関連タグ Gold Standard
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。