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世界最大DAC「ストラトス」が再び始動延期、非プロセス系部品が露呈させたFOAKリスク

2026.05.12 読了 約5分
世界最大DAC「ストラトス」が再び始動延期、非プロセス系部品が露呈させたFOAKリスク
出典:Occidental

オキシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum、以下オキシデンタル)の子会社ワンポイントファイブ(1PointFive)が米テキサス州エクター郡で建設中の世界最大級の直接空気回収(DAC)施設「ストラトス(Stratos)」が、再度の稼働延期に直面している。同社のCEO就任予定者で現COOのリチャード・ジャクソン(Richard Jackson)が2026年5月の四半期決算で明らかにした。

延期の理由は、コア技術ではなく「非プロセス系コンポーネント(non-process components)」の不具合である。フェーズ1(年間25万トン規模)の試運転では、エアコンタクター、加熱系、CO2吸収材を含むプロセスユニットは設計通りに機能したと同社は説明している。

一方、試運転完了後に技術以外の付帯設備の問題が判明し、修理タイムラインと操業スケジュールへの影響を現在評価中であるとした。次四半期に追加の情報を提供する予定とされ、年間の設備投資レンジには影響しない見通しという。

一部報道ではこれを「無期延期(indefinite delay)」と報じたが、オキシデンタルの公式発言では「評価中」「次四半期に更新」と表現されており差がある。

プロジェクトの規模と経緯

ストラトスは完全稼働時に年間50万トンのCO2を大気中から除去する設計能力を持ち、現在運転中の世界最大級DAC施設(年間約3万6,000トン)の約14倍にあたる。2023年に建設が開始され、2024年にはブラックロック(BlackRock)が共同投資パートナーとして資金支援を表明している。

稼働開始時期は当初の2024年末から2025年末に一度延期され、今回さらに後ろ倒しとなる。プロジェクト総額は前回開示時から1億ドル増加し、12億ドル(約1,884億円)に拡大した。フェーズ2(追加25万トン)の建設はすでに完了しているとされ、最後のエアコンタクター2基と新型ペレットリアクターが据え付けられている。

「技術は動いた」と「商業運転に至る」の隔たり

ジャクソンの説明で繰り返されたのは、「テクノロジーとプロセスユニットは想定通りに動作した」という点である。コア技術はFOAK(First-of-a-Kind、初号機)として概ね検証されたという立場を堅持する姿勢が読み取れる。

しかし、本件で問題となったのはコア技術ではなく「非プロセス系コンポーネント」、すなわち動力供給、配管、計装、付帯ユーティリティ、サイト統合といったBalance of Plant(BOP)領域である可能性が高い。これはDAC固有の問題ではなく、化学プラントや発電所のFOAK建設で繰り返し観察されてきた典型的な躓きの構造に符合する。技術原理の実証と、24時間連続運転に堪える商業プラントの完成との間には、しばしば想定の数倍の時間とコストが横たわる。

一方で、これを過大評価すべきではないとの見方もある。

試運転で付帯設備の不具合が判明するのはFOAKでは想定内であり、コア技術が機能している以上、DAC技術そのものの実装可能性に疑義を投じる事例ではないとの反論である。実際、オキシデンタル側は今回の修理が年間設備投資レンジに影響しないと明言しており、財務的に管理可能な範囲との位置づけを示している。

他DAC事業者への含意

ストラトスの躓きは、業界全体で進行中のDACスケールアップ計画に対して無視できない含意を持つ。

スイスのクライムワークス(Climeworks)が米ルイジアナ州で計画する「シクロン(Cyclone)」、米ヒアルーム(Heirloom)の年産規模拡張、その他複数のDACハブ構想は、いずれも10万トン超級のFOAK領域に踏み込もうとしている。

これらの計画における主要なボトルネックがコア技術の改良に置かれてきたのに対し、ストラトス事例はBOP・サイト統合・コミッショニング工程の難易度がコア技術と同等以上のリスク要因になりうることを示唆する。CDR市場のバイヤー側(マイクロソフト、エアバス、JPモルガン・チェース、その他事前購入契約者)は、調達契約におけるデリバリーマイルストーンと違約条項の設計を改めて点検する必要があろう。

経営陣の交代と政策的不確実性

延期発表と前後して、オキシデンタルでは経営トップの交代が予定されている。

ヴィッキー・ホルブ(Vicki Hollub)が2026年6月1日付でCEOを退任し、後任にジャクソンが昇格する。DAC事業はホルブが在任中に積極推進してきた領域であり、後継体制下での戦略的位置づけは引き続き注視対象となる。

加えて、オキシデンタルが手がけるもう一つの主要DACプロジェクト「サウステキサスDACハブ」も不確実性に直面している。2023年にバイデン政権下で5億ドル(約785億円)のマッチング助成が決定したが、トランプ政権による2025年末の補助金見直しリスト入りが報じられた。直近の発表では当該案件を含む2,000件の助成は維持または修正される方向とされたものの、支援の具体的内容は明らかになっていない。

ストラトスの再延期は、コア技術の不具合ではなく非プロセス系の問題で生じている点こそが本質的に重い。

DACの議論はこれまで吸着材、エネルギー消費、回収効率といった原理面に集中してきたが、商業規模プラントの実装段階では、BOP・サイト統合・コミッショニングがコア技術と並ぶ律速要因となる構図がここに明示された。これはDAC固有ではなく大型化学プラントのFOAKに普遍的に潜むリスクであり、楽観的なロードマップが内包する盲点である。

参考:https://www.oxy.com/investors/quarterly-earnings/

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。