マラウイとスイスが、両国間の二国間気候協定に基づくパリ協定6条2項の初の認可活動として「マラウイ乳業バイオガス事業(Malawi Dairy Biogas Activity)」を正式に承認した。
本事業は小規模酪農家へのバイオダイジェスター普及を通じてメタン排出削減を実現し、生成される国際移転対応クレジット(ITMO)がスイスのパリ協定目標達成に充当される。
両国の二国間気候協定は2022年11月16日、COP27(エジプト・シャルムエルシェイク)で署名された。この協定はパリ協定6条2項に基づく協力枠組みを規定し、温室効果ガス(GHG) 削減活動が環境十全性・持続可能な開発目標(SDGs)・人権への適合を満たすことを担保する。
マラウイ政府は、本事業がマラウイのNDC(国が決定する貢献)に対して追加性を有することを確認し、国家排出量登録簿への対応調整(コレスポンディング・アジャストメント)に合意した。この合意が両国による正式認可の法的根拠となる。
本事業の中核は、全国の小規模酪農家1万世帯へのバイオダイジェスター配布である。家庭用バイオダイジェスターは牛糞をクリーンエネルギーのバイオガスと有機肥料に変換する仕組みで、以下の二経路でGHG排出を削減する。
バイオダイジェスターはバイオガスコンロ・バイオ肥料管理システム・技術研修・モニタリングプログラムをパッケージ化したターンキー方式で提供される。
排出削減量の算定・報告はデジタル測定・報告・検証(dMRV)システムで実施され、保守的かつ透明性の高い手法が採用されている。
本事業の共同開発者は、バイオガス・バイオ肥料ソリューション企業のシスチマ・バイオ(Sistema.bio)、マラウイのクリーンエネルギー推進企業エコジェン(EcoGen)、カーボンプロジェクト支援会社エーシーティー・グループ(ACT Group)の3社。
資金支援はスイスのクリク財団(KliK Foundation) が担う。クリクはITMOの購入によって事業の財務的持続可能性を確保し、生成されたITMOをスイスの排出削減目標達成に充当する。シスチマ・バイオのCEO兼共同創業者アレクサンダー・イートン(Alexander Eaton)は「16年の農家支援経験を持つシスチマ・バイオにとって、このような多国間パートナーシップによる事業を先導できることを誇りに思う」と述べた。
クリク財団カーボン調達部門のアンドレア・ターナー(Andrea Thurner)は「シスチマ・バイオの革新的なモニタリング手法はカーボン市場に新たな標準を打ち立てるもの」と評価した。
本事業はコベネフィットの面でも注目される。
クリーンバイオガスへの移行により、燃料調達を担う女性が費やす時間・費用が削減されるとともに、室内煙・有害ガスへの暴露がなくなる。堆肥の適切な管理による土壌・水質汚染の低減や、化学肥料に代わる有機肥料の活用による農業生産性向上も期待される。
エコジェンCEOのクレメント・カンドド(Clement Kandodo)は「農民・クリーンエネルギー・気候行動を農村開発の中心に置くマラウイのこの取り組みは、気候変動対策が現場の人々にも機能することを示す有力な証拠だ」と述べた。
エーシーティー・グループの気候プロジェクトマネージャー、サミュエル・ウェクター・カス(Samuel Waechter-Cass)は「本プログラムは排出削減・健康改善・エネルギー主権の向上を同時に実現する革新的な事業だ」と評価した。
日本企業にとって本事例が示す意義は三点ある。
第一に、パリ協定6条2項を活用したITMOの実案件がアフリカで本格始動したことで、日本が推進する二国間クレジット制度(JCM)との実務比較が急務となる。第二に、dMRVを活用した保守的算定手法は、国際的なカーボンクレジットの高インテグリティ化要求への対応モデルとして参照価値がある。第三に、マラウイのNDCコレスポンディング・アジャストメントへの合意は、日本企業がJCMプロジェクトのITMOを国際市場で活用する際に直面する制度的障壁と同構造を持つ点で、政策担当者・実務者ともに注視すべき先行事例である。
参考:https://www.klik.ch/en/news/news-article/malawi-dairy-biogas-programme-authorised