ENEOSとフェイガーは2026年4月27日、農業由来J-クレジットの長期購入契約(オフテイク契約)を締結したと発表した。
日本の水稲農家が「中干し」期間を延長することで水田から発生するメタンを抑制し、温室効果ガス(GHG)削減と気候変動への適応を一体的に推進する取り組みである。
フェイガーは将来的に日本の水田面積の約20%に相当する規模での展開を通じて年間100万トン規模の創出を目指し、ENEOSがその需要を長期的に下支えすることで、カーボンニュートラル社会の実現と食料安全保障の強化の両立を狙う。
形成途上にある日本のカーボンクレジット市場では、制度の不確実性が農家にとってGHG削減型農法の導入を阻む構造的な障壁となっている。GHG削減効果に対する認知は広がりつつあるものの、継続的な収益が見込めない不透明な状況下では、農家が実際に営農方法を変えることは容易ではないというのが現状である。
ENEOSは、こうした課題を取り除くことを契約の目的の一つに掲げた。
実証レベルにとどまらず、日本の水田の約20%相当という社会実装規模で農業由来J-クレジットの需要を創出することで、農家が安定的に収益を得られる基盤の確立を目指す。長期オフテイクによる需要シグナルが供給側の意思決定不確実性を解消する、典型的な市場形成手段といえる。
本取り組みで農家に求められるのは、日本の水稲農業に古くから根ざした「中干し」の延長である。中干しは田んぼの水を一定期間抜いて土を乾かす工程であり、嫌気性条件下で発生するメタン生成を抑制する効果がある。国際的には間断灌漑(AWD)に類似する手法に位置付けられ、J-クレジット制度ではすでに方法論として承認されている。
中干し延長は、土壌に酸素を供給することで根の発達を促し、稲がより深く根を張ることで出穂から収穫まで根の活力が維持されやすくなる。近年深刻化する夏季の高温や乾燥によって全国の産地で品質低下が課題となるなか、本手法はGHG削減(緩和)と収量・品質維持(適応)を両立させる統合的アプローチとして機能する点に大きな意義がある。
ENEOSグループは、Scope1,2のCO2排出量を2030年度までに2013年度比46%削減する目標を掲げており、農業由来J-クレジットの創出・活用を、エネルギー・素材の安定供給とカーボンニュートラル社会の実現を両立させる中核施策の一つに位置付ける。
長期オフテイクによって農家には中干し延長に伴うカーボンクレジット収入が継続的にもたらされる構造となり、農家はこの収入を気候変動に対応した営農技術や耐候性資材の導入に充てることができる。資金と技術の循環を通じてさらなるGHG削減と気候変動への適応を一体的に進める、持続可能な農法の社会実装が見込まれる。
フェイガーは農業分野に特化し、国内外で農業由来カーボンクレジットの創出と気候変動適応のための耐候性ソリューションを提供している。両社は今後、カーボンクレジット購入にとどまらず、気候変動適応に向けた取り組みでも連携を一段と強化する方針を示した。
本契約は削減系カーボンクレジットの長期オフテイクとしては国内最大級の規模感であり、需要側のコミットメントが供給側の構造的障壁を解消する市場形成の好例である。
一方、水田メタン削減方法論は測定・報告・検証(MRV)の厳格性、ベースライン設定の妥当性、追加性の確保が国際的に論点となってきた領域でもあり、100万トン規模への展開過程ではデジタル測定・報告・検証(dMRV)の実装と第三者検証の透明性確保が不可欠となる。
GX-ETSの本格稼働を控え、Scope1,2のオフセットに国産の削減系カーボンクレジットを充てる日本企業の戦略は、評価機関や投資家による「品質」精査の強度上昇とセットで設計する必要がある。
参考:https://www.eneos.co.jp/newsrelease/2026/20260427_01_01_mr07.html