雨風太陽は2026年3月19日、2025年度の事業活動に伴う温室効果ガス(GHG)排出量を、同社の産直アプリ「ポケットマルシェ」の登録農家が創出したJ-クレジットによってカーボンオフセットし、Scope1・2・3にわたるカーボンニュートラルを達成したと発表した。
雨風太陽は、GHGプロトコルおよびSSBJの基準に準拠し、自社でScope1から3までのGHG排出量を算定した。FY2025における総排出量は55.9トン(CO2e)となった。内訳はScope1(直接排出)1.2トン、Scope2(間接排出)7.9トン、Scope3(その他間接排出)46.8トンである。
Scope3の主要排出源は出張(宿泊・移動)が計29.6トンと最大を占め、次いでデータセンター利用(9.9トン)、旅客移動(6.6トン)、自社企画商品の配送(0.7トン)と続く。産直ECおよび旅行プログラムという事業構造上、輸送・移動に伴う排出が不可避であることを同社は「マイナスのインパクト」として正面から開示しており、J-クレジットを活用したカーボンオフセットはその直接的な対応策と位置づけられている。
カーボンオフセットに用いたカーボンクレジットは、J-クレジット制度の方法論AG-005「水稲栽培における中干し期間の延長」に基づき創出されたものである。
水田は稲作中にメタンガスを発生させる排出源の一つであり、メタンはCO2の約28倍の温暖化効果を有する。「中干し」は稲作本来の工程として水田の水を抜いて土壌を乾燥させる作業だが、この期間を7日以上延長することで土壌乾燥によるメタン生成菌の活性が抑制され、排出削減量がカーボンクレジットとして計量・認証される。
実施農家は石川県の中村篤史氏(ポケットマルシェ登録農家)で、対象面積は9.99ヘクタール。過去実績11日間の中干しを19日間(+8日延長)に延ばし、2024年産として57.6トンのカーボンクレジットがJ-クレジット制度に認証された。雨風太陽はこのカーボンクレジットを全量買い取り、FY2025総排出量55.9トンに充当することでカーボンニュートラルを達成している。
J-クレジット申請・審査プロセスにはグリーンカーボン株式会社(Green Carbon株式会社、代表取締役:大北潤)の稲作コンソーシアムが連携し、圃場面積・排水条件・過去の中干し実績などの審査を担った。
【数値の照合注記】 インパクトレポートのp.23には「買取クレジット量58.0トン」、p.33には「認証量57.6トン」と記載があり、2つの数値が並存している。認証量57.6トンが第三者審査を経た確定値であり、買取量58.0トンは端数処理等の差異によるものと推察されるが、出所資料にその説明はなく、現時点では確認できない相違として記録する。
雨風太陽は今回の取り組みを単なる排出量相殺にとどまらない「循環型オフセット」と位置づける。その構造は次のとおりである。
農家が環境配慮型営農(水稲の中干し延長等)によってカーボンクレジットを創出し、雨風太陽がそのカーボンクレジットを買い取って自社排出量をオフセットする。買取代金が農家の副収入となり、さらなる持続可能な農業を後押しするという連鎖が成立している。
クレジット創出のプロセスは5段階で構築された。登録農家827名へのJ-クレジット関心度アンケートを起点に、関心を示した12名への説明会を開催。
その後、グリーンカーボンとの連携審査を経て通過者1名が中干し延長を実施し、認証後に全量買取が完結した。今後はバイオ炭の農地施用による炭素固定の導入可能性を探るとともに、参加農家数の拡大を目指すとしている。
今回公開された「インパクトレポート/社会的財務諸表報告書」は、GHG排出量・カーボンオフセットを「マイナスのインパクト」として経済的財務諸表と並置する「社会的財務諸表」という独自の情報開示フレームを採用している点が特徴的である。
事業活動によるインパクト指標(顔の見える流通総額・コミュニケーション数・都市と地方を往来して過ごした日数)と、GHG排出・オフセット情報、さらに事業外活動(能登復興支援、ふるさと住民登録制度の提言等)を一体的に開示することで、社会的・経済的価値を統合的に示す体制の構築を目指している。
なお、GHG排出量の算定対象はScope1・2・3の一部(出張・配送・データセンター等)に限定されており、算定対象外のScope3カテゴリが存在することは留意が必要である。
農業由来のJ-クレジット(AG-005)を自社のScope3オフセットに充当する本事例は、プラットフォーム企業が自社サプライヤーネットワークをカーボンクレジット創出の基盤として活用するという新たなモデルを示している。
GX-ETSやJ-クレジット制度の拡充が進む中、食品・農業系プラットフォームを運営する企業が類似の循環型オフセット設計を検討する参考事例となる可能性がある。
また、農地メタン削減クレジットの調達コストと品質(追加性・永続性の担保)についての情報開示は現時点で限定的であり、今後の信頼性強化が課題となろう。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000283.000046526.html