カーボン・ビジネス・カウンシル(Carbon Business Council、CBC)は2026年5月14日、中南米地域におけるCDR投資の論点を整理した「中南米炭素除去投資ロードマップ」(Latin America Carbon Removal Investment Roadmap)を公開した。英語・スペイン語・ポルトガル語の3言語で展開し、ブラジル、メキシコ、コロンビア、ペルー、チリの5カ国を中核市場と位置づける。
ロードマップは、CBC が主催する中南米炭素除去ワーキンググループにおける8カ月の構造化対話の成果物である。寄稿には BBVA、Boomitra、Carbonfuture、Cercarbono、Exomad Green、Future Climate Group、Howden、InPlanet、KfW、Kita、Mitsubishi Corporation do Brasil(三菱商事ブラジル現地法人)、Mombak、Remove、Silica、Tierra Prietaの15社が名を連ね、Convergence Blended Finance が追加的知見を提供した。ワーキンググループ議長のアイザック・デ・レオン(Isaac De Leon)が筆頭執筆者を務めている。
ロードマップが示す核心は、中南米 CDR が抱える構造問題を「相互待機の循環」として定式化した点にある。
ロードマップによれば、多くのCDR手法は科学的には既に成立しているにもかかわらず、中南米でのプロジェクトファイナンスは大規模展開に至っていない。
背景にあるのは、市場参加者が互いの動きを待つ構造である。バイヤーは政策整備を、銀行は契約済み収益の確保を、開発業者は資本投入を、政府は市場実証をそれぞれ待つ。各主体の判断が他者の先行を前提とするため、いずれも踏み出せないという循環が生じている。
CBC はこの循環を地域固有の異なる課題ではなく、視点を変えただけの同一の金融課題として整理する。打開策として、ブレンデッドファイナンスによる初期リスクの吸収、契約済み収益によるバンカビリティの確保、中南米地域の高い資本コストへの適合の3点を提示している。
ロードマップは、ブラジル、メキシコ、コロンビア、ペルー、チリの5カ国それぞれについて、各国の事情に応じた適用論を展開する。さらに域内協力の機会領域も示し、地域単位での共通基盤づくりを提案している。
具体的な打ち手としては、相対的にハードルが低く実証段階に進めやすい「クイックウィン」型の初期施策が例示されている。ワーキンググループ内の検討を経て、短期で成果を出しやすい第一歩として整理されたものとされる。
寄稿企業15社の顔ぶれを見ると、Mombak(ブラジルの植林)、InPlanet(ERW)、Exomad Green(バイオ炭)、Boomitra(土壌炭素)など、NbSおよび自然由来のCDRを担う企業が中心である。
一方で DAC、DACCS、BECCSを主軸とする技術由来CDRの主要プレーヤーは寄稿者リストに不在である。これは中南米地域の比較優位、すなわち広大な土地、生物多様性、農業基盤を反映した構成であり、地域 CDR が向かう方向性を端的に示している。
本ロードマップは、中南米CDRの業界自己組織化が宣言段階に入ったことを示す到達点として評価できる。
8カ月の対話で15社・5カ国の論点を単一フレームに束ねた成果は、地域市場の構造化を一段進めた。もっとも提示された金融アーキテクチャ論はブレンデッドファイナンス論の中南米版という枠を超えておらず、「相互待機の循環」を断ち切る具体的な資金フローや契約事例の提示は限定的である。本文書は実質的な資金動員ではなく、論点整理の段階に留まる。
参考:https://www.carbonbusinesscouncil.org/news/latam-investment-roadmap-2026