JR東日本グループの旅行会社、株式会社JR東日本びゅうツーリズム&セールスは、2025年度に岩手県一関市の市有林を原資とする森林経営活動由来J-クレジット78トンを購入した。
同社が展開する「びゅうサステナブルツーリズムプロジェクト」の一環で、東日本エリアの森林由来J-クレジットを用いたカーボンオフセットを継続的に進めている。
2026年5月8日には、一関市主催の「一関市有林J-クレジット購入記念品贈呈式」が同社にて開催され、佐藤善仁一関市長から同市産杉材を用いた記念品が贈呈された。
一関市が創出するJ-クレジットは、市有林における森林経営活動を方法論的基盤としている。森林経営活動方法論は、適切な間伐・保育等の森林管理によって達成された吸収量を定量化するもので、J-クレジット制度における吸収系プロジェクトの中核を占める。
自治体が創出主体となるJ-クレジットは、収益が地域に還流される構造を持ち、市有林・町有林の管理財源として活用される例が増えている。一関市は林業振興と森林整備の財源確保を目的にJ-クレジット創出に取り組む自治体のひとつであり、購入企業との贈呈式や記念品贈呈を通じた関係性構築を意識的に進めている。
規模の観点でみると、78トンという購入量は企業のオフセット事例としては限定的である。自治体創出案件は1件あたりの創出量が中小規模に留まることが多く、企業の大口需要を満たすには複数案件を組み合わせる必要がある構造を抱える。
旅行・観光業の温室効果ガス排出は、輸送、宿泊、施設運営など複数のスコープにまたがる。事業者単独で削減できる範囲は限られ、観光体験全体に紐づく排出をどう扱うかが業界共通の課題となっている。
このため、観光商品や旅行サービスにカーボンオフセットを組み込むアプローチは、宿泊・旅行業界で段階的に広がってきた。航空業界のCORSIA対応や持続可能な航空燃料導入のような大規模かつ制度的な枠組みとは異なり、観光業の取り組みは個別事業者の自主的な購入が中心で、規模よりも商品設計やブランディングとの結びつきが強い。
もっとも、観光商品にカーボンオフセットを組み込む手法には、削減を優先する原則の観点から本来事業者が取り組むべき排出削減努力が後退しかねないとの議論があり、オフセットの位置づけは引き続き論点として残る。
JR東日本びゅうツーリズム&セールスの取り組みは、観光業界におけるカーボンオフセット活用の典型例のひとつであり、自治体創出J-クレジットを通じて地域との関係性を可視化する構造を備える。
観光業のカーボンオフセット活用は、規制対応というより事業者の自主的取り組みとして広がってきた領域である。今回の事例は、購入規模としては限定的な水準にとどまるが、自治体創出J-クレジットを介して地域経済との接点を組み込む構造を持ち、観光業がオフセットに付与しうる固有の価値、すなわち地域連携と顧客接点を体現している。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000383.000082705.html