政府主導のカーボンクレジット市場成長連合(The Coalition to Grow Carbon Markets)は6月23日、ロンドン気候行動週間において、高品質カーボンクレジットの需要を喚起する政策選択肢をまとめた政策プレイブックをCOP31で公表すると発表した。あわせて、シティ・オブ・ロンドン・コーポレーション(City of London Corporation)と連携し、確立された金融市場の知見をカーボンクレジット市場のスケール化に応用する方針を明らかにした。
同連合は昨年のロンドン気候行動週間で発足し、現在はカナダ、フランス、英国など11カ国が加盟する。共同議長はケニア、シンガポール、英国が務める。
プレイブックは、昨年公表された「共有原則(Shared Principles)」を各国の政策に落とし込むための選択肢を提示する。共有原則は、企業の脱炭素計画におけるカーボンクレジットの位置づけについて国際的な整合を図るものである。
プレイブックはCOP31で公表され、加盟11カ国の取り組みを方向づけるとともに、市場活性化を目指す他国にも指針を提供する。法的拘束力はなく、各国の法令や主権的な規制権限に優先するものではない。
今回の発表は、カーボンクレジットの活用に関して政府の明確さと一貫性を求める産業界の声に応えたものである。連合共同議長で英国気候特別代表のレイチェル・カイト(Rachel Kyte)は、需要を喚起する実効的な政策設計には協調した取り組みが必要であり、プレイブックは加盟国の経験と業界の知見、国際パートナーの専門性を結集して、企業を慎重姿勢から投資への確信へと動かすと述べた。
加盟国の一部はすでに共有原則に沿った行動に着手している。ニュージーランド政府は高品質なカーボンクレジット制度を承認・推奨し、市場参加者の実務指針を明確化した。カナダは政府と主要企業・金融機関が連携し、自国の除去系カーボンクレジットの需要を喚起する取り組みを、共有原則に整合する形で進めている。加盟国ではないエジプトも連合の活動への支持を表明した。
連合は政策プレイブックと並行して、カーボンクレジット市場の法的・財務的基盤の強化を進める。取引を円滑化し、ディリスクを図り、規模を拡大するためのインフラを整備することで、政策が需要を加速させる局面で資本が効率的に流れる環境を整える狙いである。
その中核が、シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションおよびUKカーボンマーケットフォーラムとの連携である。実績ある資本市場の知見をカーボンクレジット市場に応用し、官民双方の金融市場関係者によるネットワークを構築して、一貫性と透明性を備えた市場インフラの整備につなげる。ロンドンを国際カーボンクレジット市場の金融ハブと位置づけ、市場拡大とともにその機能を広げる構想である。
シティ・オブ・ロンドン・コーポレーション政策委員長のクリス・ヘイワード(Chris Hayward)は、市場のスケール化には官民連携が不可欠であり、ロンドンが持つ金融市場インフラの専門性を活かすことで、資本を引き出し、ネットゼロ経済への移行を支える透明で強靱なシステムの構築に貢献できると述べた。
連合は6月24日のネットゼロ・デリバリー・サミットでも、シティとの共催イベントを通じてカーボンクレジット市場と既存金融システムの整合を議論する。
連合は、市場が成熟へ向かう兆候として取引データの動向を挙げる。市場データによれば、企業が将来の供給を確保するオフテイク契約の価値は2025年に前年比でほぼ3倍の123億ドル(約1兆9,900億円)に拡大した。将来の価格上昇と供給逼迫を見越し、買い手が現時点で高品質なカーボンクレジットを確保している動きを示すものである。
経済的な裾野も論拠とされる。業界分析によれば、英国でカーボンクレジット市場を支えるサービス産業は年間12億ポンド(約2,560億円)を経済に寄与しており、市場拡大は同国の雇用創出を後押しするとされる。
連合の事務局はVCMIが担い、GFANZ、ICVCM、IETA、世界銀行、WBCSDなどが国際パートナーとして関与する。
本件の実質は、COP31まで具体策が持ち越された需要側政策よりも、カーボンクレジット市場を確立された金融市場のインフラへ接続する動きにある。
シティとの連携は、取引のディリスクや透明性確保といった資本市場の手法をカーボンクレジット市場へ移植する試みであり、明確な政策シグナルを欠いたまま本格参入を見送ってきた金融機関の資金を呼び込む基盤整備にあたる。バンカビリティと流動性の欠如という、市場拡大の構造的制約に対する処方といえる。
ただし、この金融インフラは需要側政策の具体化に先行して組み上げられつつあり、取引基盤の整備が共有原則の実装に先んじる局面として位置づけられる。
参考:https://coalitiontogrowcarbonmarkets.org/policy-playbook/