サウジアラビアのディープテック企業テラクシー(Terraxy)が、シード2ラウンドで300万ドル(約4億8,400万円)を調達した。ラウンドをリードしたのは国営石油大手アラムコ(Aramco)のベンチャーキャピタル部門ワード・ベンチャーズ(Wa’ed Ventures)で、テラクシーの母体であるアブドラ国王科学技術大学(KAUST)も戦略的に参加した。
調達資金は、パイロット規模からサウジアラビア全土での工業生産への移行に充てられる。中核となるのは、アルズルフィ(Al Zulfi)に新設する30,000平方メートルの商業生産施設である。テラクシーはこれまでに環境・水・農業省(MEWA)の規制サンドボックスを通過し、実環境下での技術検証を終えている。
主力製品カーボソイル(Carbosoil)は砂質土壌向けの改良材で、同一の水・養分投入下で植物の成長と収量を最大70%改善するとされる。テラクシーはこの技術がCO2を土壌中に数世紀にわたり固定し、除去系カーボンクレジットの創出につながると説明する。
ただし、カーボンクレジット創出は現時点で将来構想の段階にとどまる。
公式発表でも炭素固定は土壌再生という主用途に付随する効能として位置づけられており、除去系カーボンクレジットの品質要件に照らした第三者検証の進捗は明らかにされていない。
本件で注目されるのは出資の主体である。
ワード・ベンチャーズはアラムコの傘下にあり、今回の出資は産油国の国営石油資本が炭素除去に近接する技術へ資金を振り向けた事例にあたる。サウジアラビアは「サウジ・グリーン・イニシアティブ(Saudi Green Initiative)」と国家変革計画「ビジョン2030(Vision 2030)」のもとで大規模な緑化と経済多角化を進めており、本件投資もこの文脈に位置づけられる。
土壌系の炭素固定が将来的に除去系カーボンクレジットとして供給されれば、ボランタリーカーボンクレジット市場における中東発の新たな供給源となりうる。
本件は土壌再生技術への地域投資として捉えるのが妥当であり、除去系カーボンクレジットの観点では実需よりも将来の供給ポテンシャルを示す事例にとどまる。
むしろ着目すべきは、産油国の国営石油資本が炭素除去に近接する領域へ資金を配分し始めた構図である。中東は豊富な太陽光資源と低コストの土地、潤沢な投資原資を背景に、DACをはじめとする炭素除去技術の集積地としての存在感を強めつつある。土壌系を含む同地域発の供給がボランタリーカーボンクレジット市場でどの程度の品質と規模を確保できるかが、今後の市場構造を左右する。