EU理事会の議長国キプロスと欧州議会の代表は6月11日未明、建物・道路輸送などを対象とする新制度ETS2の市場安定化準備金(MSR)について、的を絞った改正で暫定合意した。2028年のETS2本格稼働を前に、価格変動の抑制と市場の予見性向上を狙う。
合意の核心は価格制御機構の強化にある。炭素価格がCO2換算1トンあたり€45(約8,300円、2020年価格基準)を上回った場合に準備金から放出される排出枠を、従来の2,000万枚から4,000万枚へ倍増する。発動は年2回まで可能で、年間最大8,000万枚が追加供給されうる。
あわせて、2030年に失効予定だったMSRの存続期間を2030年以降へ延長する。
供給放出のルールも調整する。流通枠が2億6,000万枚を下回った際の放出をより段階的かつ応答的にし、一度に大量放出される「閾値効果」による市場の不確実性を避ける。
合意にはレビュー条項も盛り込まれた。委員会による将来のMSR見直しでは準備金内の残余枠を考慮し、ETS2のレビューでは価格安定化機構とMSRルールを精査する。ETS2オークションの収益は、建物・道路輸送分野の気候・エネルギー移行策に充当する方針が確認された。
キプロスのマリア・パナイオトゥ(Maria Panayiotou)農業・農村開発・環境相は、今回の合意が流動性の改善と価格変動の抑制を通じて、家計・企業・加盟国に予見性をもたらすと位置づけた。
ETS2は2023年の「Fit for 55」の一環として導入が決まり、対象部門で2030年に2005年比42%減を目指す。燃料供給業者に排出量の監視・報告と相当量の排出枠提出を課す制度である。2025年7月に19の加盟国がETS2の円滑な開始を求めるイニシアチブを示し、これを受けて委員会がMSRの的を絞った改正を提案していた。
暫定合意は今後、理事会と欧州議会の承認を経て、法務・言語面の調整後に正式採択される。改正後のMSRはETS2本格稼働に間に合うよう施行される。
今回の改正は、ETS2の価格制御を放出量と存続期間の両面で補強し、2028年稼働に向けた制度の予見性を高める内容である。一方で、放出枠の倍増とMSRの恒久化は供給調整の比重を高める設計でもあり、価格シグナルの一貫性と価格安定をどう両立させるかが、ETS2運用初期の評価軸となる。