環境省は2026年3月31日、事業者の環境表示のあり方を定めた「環境表示ガイドライン」を改定し、公表した。
前回改定(2013年3月)から12年ぶりの本格改訂となる今回の改定は、国内外でグリーンウォッシングへの監視が強化されるなか、日本企業がカーボンニュートラルやカーボンオフセットを含む環境性能を製品・サービスに表示する際の実務に直接影響を与える内容となっている。
本改定の直接的な契機は、欧州連合(EU)が2023年3月に公表した「グリーン訴求指令案」をはじめとする国際的なグリーンウォッシング規制の動向にある。欧州では消費者向け環境主張に対する法的規制が急速に整備されており、日本企業も輸出製品や欧州子会社における表示対応を迫られている。
環境省は「ネットゼロへの対応やグリーン製品の市場拡大に向けた動きを背景に、グリーンウォッシング対応に対する社会的な関心が高まっている」と改定の趣旨を説明。企業が環境表示において「萎縮することなく」適切な情報発信ができる環境整備を目指すとしている。
今回の改定では、ガイドラインの基本的な考え方であるISO/JIS Q 14021(自己宣言による環境主張)への準拠を維持しつつ、以下の5つの基本項目が見直された。
①あいまいな表現や環境主張は行わないこと
「環境にやさしい」「グリーン」「持続可能」といった単独では定義が不明確な表現は原則として禁止される。カーボンニュートラル製品の訴求においても、算定対象・算定方法・対象期間の明示が求められる。
②環境主張の内容に説明文を付けること
削減量や改善率について合理的根拠(試験成績書・サプライヤー証明・学術文献等)の提示を求める。
③製品のライフサイクル全体を考慮すること
主張しようとする環境改善が、他のライフサイクル段階に重大なトレードオフをもたらさないかの確認を要請。バイオマスプラスチック等の事例がイラストで追加説明されている。
④環境主張の検証に必要なデータ及び評価方法が提供可能で、情報にアクセスが可能であること
消費者等が環境主張を裏付けるデータや評価方法に「容易にアクセスできること」が重要とされる。
⑤製品または工程における比較主張はLCA評価・数値等により適切になされていること
百分率か絶対値で比較し、製品の改善と包装の改善は別個に主張することが求められる。
改定版ではこれら5項目についてイラストを用いた直感的な解説が加えられるとともに、参考情報としてグリーンウォッシング対策の国際的動向が大幅に拡充されている。
本ガイドラインはカーボンクレジットを明示的な対象に含んでいないものの、カーボンオフセットを活用した製品・サービスの「カーボンニュートラル表示」は本ガイドラインの直接的な規律対象となる点に注意が必要だ。
特に問題となり得るのは以下の3点である。
第一に、カーボンクレジットの品質表示の透明性。使用するカーボンクレジットの種類(J-クレジット制度、ボランタリーカーボンクレジット市場等)、発行方法論、測定・報告・検証(MRV)の体制を明示せずに「カーボンニュートラル」と表示すれば、①の「あいまいな表現」に抵触するリスクがある。
第二に、追加性・永続性の根拠提示。④の要件に照らせば、利用するカーボンクレジットの追加性や永続性に関する検証報告書等へのアクセス手段を消費者向けに提供することが望ましいとされる可能性がある。
第三に、Scope1・2・3のどの排出量をオフセット対象としているかの明確化。③の「ライフサイクル全体の考慮」に関連し、製品製造段階のみをオフセットしてカーボンニュートラルと主張する場合、その範囲を明示しなければ誤認を招くとみなされるリスクがある。
なお、ガイドラインへの適合は事業者の自主性を尊重する形で求められており、法的強制力を持つものではないが、景品表示法(景表法)との関係から実質的な拘束力を有する。
本改定は、J-クレジット制度やボランタリーカーボンクレジット市場を活用したカーボンオフセット表示を行う日本企業にとって、対応の見直しを迫る実質的な転換点となる。
特に消費財メーカーや流通業において、「カーボンニュートラル製品」表示の根拠文書整備とLCA(ライフサイクルアセスメント)ベースの算定体制の構築が急務となろう。
EU「グリーン訴求指令」との整合も念頭に、早期に社内ガイドラインのアップデートに着手することが賢明だ。