オランダの国営ガス輸送会社ガスユニー(Gasunie)が推進する大型インフラプロジェクト「デルタ・ライン・コリドー・ウエスト(Delta Rhine Corridor West、DRC West)」において、地球科学・地盤調査の専門企業フーグロ(Fugro)とエンジニアリングコンサルタントのスウェコ(Sweco)が、現地フィールド調査を2026年3月末より本格的に開始した。
同プロジェクトは、水素輸送と炭素回収・貯留(CCS)ネットワークを一体的に整備する、欧州でも先進的な統合エネルギーインフラ計画である。
DRC Westは、オランダ最大の工業港であるロッテルダムのマースフラクテ(Maasvlakte)工業地帯を起点に、モールダイク(Moerdijk)・ボクステル(Boxtel)を結ぶ全長約70キロメートルのパイプライン網を構築するプロジェクトだ。
このネットワークは二つの主軸を担う。第一に、産業ユーザーへの水素輸送。第二に、産業施設で回収されたCO2を北海の沖合CCS貯留サイトへ圧送する経路の確保だ。工業クラスターが排出するCO2をオフショアの地中に長期貯留するというアーキテクチャは、欧州の産業脱炭素政策の根幹を成すものであり、DRC Westはその物理的バックボーンに位置付けられる。
フーグロは、マースフラクテ工業地帯からホーランツ・ディープ(Hollands Diep)水路に至る約70キロの区間において、以下の地盤調査を実施している。
コーン貫入試験・機械掘削・モニタリング井の設置を通じ、土壌組成、地下水状況、地盤リスクの全体像を把握する。取得データはパイプライン設計における工法選定と不確実性低減に直結する。
特に注目されるのがホーランツ・ディープの横断箇所である。同水路は交通量が極めて多い主要水路であり、フーグロは河床状況を詳細にマッピングするため、追加の地球物理探査を実施する方針だ。これにより、方向性掘削(ダイレクショナル・ドリリング)の経路検討と施工リスクの最小化が可能となる。
フーグロ欧州・アフリカ陸上部門のリージョナル・ビジネスライン・ディレクターであるヤコ・ステメット(Jaco Stemmet)氏は「我々の役割は、DRC Westが次の段階へ進むにあたり、ガスユニーが十分な根拠に基づく意思決定を行えるよう、明確で信頼性の高い地下情報を提供することだ」と述べている。
並行して、スウェコは以下の環境・空間評価を担当する。
文化的歴史、景観・生態系アセスメントに加え、潜在的な考古学的特徴の評価、土壌汚染調査、不発弾の有無の確認も実施範囲に含まれる。これらは規制対応の観点から必須の工程であり、環境影響の最小化と許認可取得を支援するものだ。
両社はすべての調査結果を集約した総合アドバイザリーレポートに取りまとめ、ガスユニーに提供する。レポートには方向性掘削の計算結果と、施工時の地下水管理(デウォータリング)計画が含まれる予定だ。今回の現地調査は、2025年に実施された机上調査(デスクスタディ)を踏まえたものである。
DRC Westは、水素供給網と炭素回収・貯留(CCS)インフラを一体化させた「産業脱炭素回廊」という新しいモデルを具現化するプロジェクトである。工業集積地が排出源と接続されることで、産業部門の大規模なネットゼロ移行が現実的な選択肢となる。
欧州では現在、EU ETSの炭素価格上昇を背景に、鉄鋼・石油化学・セメントなどのハードアバット産業がCCSへの投資を加速させており、オランダはその最前線に位置する。
日本においても、製鉄・化学・セメント各産業がScope1排出削減に苦慮するなか、DRC Westのような「CCSと水素輸送を統合したインフラ回廊」モデルは示唆に富む。
国内では二国間クレジット制度(JCM)を活用した海外CCSプロジェクトへの参画が進んでいるが、欧州型の国内統合インフラ整備との差異は依然として大きい。地盤リスクを事前に可視化し設計段階の不確実性を削減するアプローチ——は、国内のCCS適地開発においても参照すべき実務モデルである。