インド環境・森林・気候変動省は、カーボンクレジット取引スキーム(CCTS)のコンプライアンス市場において、鉄鋼セクター向けのGHG排出原単位目標を定める改正規則案を官報で公示した。ゲゼットノーティフィケーションG.S.R. 517(A)として2026年6月26日付で発表され、対象となる事業者は244社を超える。
CCTSは2023年6月に告示されたコンプライアンス市場とオフセット市場の二本立ての制度で、エネルギー多消費産業に対してGHG排出原単位目標を課す枠組みである。これまでにアルミニウム、セメント、クロルアルカリ、パルプ・紙の4セクターが2025年10月の規則で対象となり、2026年1月の改正でアルミニウム(第2弾)、石油精製、石油化学、繊維の4セクターが追加された。当初計画されていた9セクターのうち、今回の鉄鋼セクター追加により未着手は肥料セクターのみとなる。
今回の草案は、鉄鋼を製造する244社超の個別事業者ごとに、2023-24年度を基準年としたGHG排出原単位のベースラインと、2026-27会計年度の目標値を設定する内容である。目標値はtCO2e(等価製品トンあたり)の単位で個別事業者ごとに数値化されており、基準年からの削減幅は事業者の設備・技術水準によって大きくばらつく。
ただし2025-26会計年度については目標値の欄が空欄となっており、適用開始が2026-27会計年度からに据え置かれている。先行4セクターおよび追加4セクターの規則でも段階的な適用スケジュールが組まれてきた経緯があり、鉄鋼セクターについても急な負荷を避ける形で1年の猶予期間を設けたとみられる。
パブリックコメント期間は官報掲載日から60日間で、意見や異議はメールアドレスccts.hsm-moefcc@gov.in、または環境・森林・気候変動省の主計官宛てに提出できる。
対象事業者にはタタスチール、JSWスチール、SAIL傘下の各製鉄所、アルセロールミッタル・ニッポンスチール・インディアなど、インド鉄鋼業界の主要プレーヤーが名を連ねる。目標達成企業にはカーボンクレジット証明書が発行され、未達成企業は不足分の証明書を市場で調達する義務を負う。鉄鋼はインドの脱炭素政策において最もGHG排出原単位のばらつきが大きい業種のひとつであり、対象事業者数の多さは制度運用の複雑さに直結する。
鉄鋼セクターへの対象拡大は、CCTSが当初計画した9セクター体制の完成に近づく制度上の一里塚として位置づけられる。個別事業者ごとの原単位目標が244社超という規模で公示された点は、これまでの4セクターや追加4セクターと比べても運用の複雑さが際立つ事例である。
インドから鉄鋼を調達する日系企業にとっては、取引先の原単位目標達成状況やカーボンクレジット証明書の需給動向が、今後の調達コストやサプライチェーンの炭素集約度評価に影響しうる論点となる。2025-26年度の目標が見送られた経緯を踏まえると、実際の遵守負担が本格化するのは2026-27年度以降であり、供給側の対応状況を注視する段階にある。
参考:https://beeindia.gov.in/show_content.php?lang=1&level=1&ls_id=189&lid=294