CDRレジストリ大手のアイソメトリック(Isometric)が、シリーズAで4,000万ドル(約64億8,000万円)を調達した。
AIエージェントによる認証プラットフォームを、炭素除去の枠を超えて産業経済全体へ広げる構えである。累計調達額は6,500万ドル(約105億円)を超え、2022年末の2,500万ドルのシードラウンドからの上積みとなった。
リード投資家はAVP(AXA Venture Partners)。既存投資家のPlural、Lowercarbon Capitalが続き、ジョン・ドーア(John Doerr、Kleiner Perkins会長)とウォルター・コーチャック(Walter Kortschak)が個人として参画した。
ドーアはクリーンテック投資の象徴的存在であり、認証という裏方の領域に著名投資家の資金が集まった点に、この調達の性格が表れている。資金使途は、炭素除去で確立した認証手法を、クリーンエネルギー、低炭素燃料、建材、スーパー汚染物質といった産業セクターへ展開することにある。同社が照準を合わせるのは約3,500億ドル(約56兆7,000億円)規模とされる産業経済全体である。
創業者は本人確認大手オンフィド(Onfido)の共同創業者でもあるイーモン・ジュバウィ(Eamon Jubbawy)。同社が展開する認証プラットフォーム「Certify」は、AIエージェントがセンサー測定値、衛星画像、サプライチェーン記録、試験データを横断的に照合し、判断の難しい事案のみを人間の専門家に回す設計をとる。
従来の産業認証は手作業のサンプリングと監査に依存し、完了まで最大12か月を要していた。アイソメトリックはこれを数時間規模まで短縮できると主張する。
一方で、検証を高速化するほど信頼性が損なわれるのではないかという懸念は、dMRVをめぐる議論に一貫してつきまとってきた。処理速度と検証の厳格性が両立するかは、外部からの検証可能性によって裏づけられる必要がある。
アイソメトリックはこれまでに1,600万トンを超える炭素除去の検証を契約し、200件を超えるプロジェクトを支援してきた。法人購入者にはマイクロソフト(Microsoft)、JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)、ボーイング(Boeing)、アングロ・アメリカン(Anglo American)が名を連ねる。
炭素除去で築いた実績を足場に、認証という機能そのものを産業横断のインフラとして売り込む。今回の資金調達は、その移行を資本面から裏づける動きといえる。
本件は、dMRV領域でAIを前面に据えた資金調達として位置づけられる。検証に要するコストと時間は、これまでカーボンクレジット組成の実務を縛ってきた制約であり、ここを崩す試みに著名投資家の資金が集まった意味は小さくない。
注目すべきは、調達の主眼が炭素除去そのものではなく、その先の産業認証市場に置かれている点である。CDRは最大の市場ではなく、認証技術を実証する足場として相対化されている。クライメートテック投資の関心が、クレジット創出の現場から、それを支える検証インフラの層へと移りつつある兆候と読める。
ただし、認証の高速化が信頼性とどう両立するかは依然として論点である。検証を速めるほど、その手続きが第三者から追検証できるかが問われる。
日系企業によるカーボンクレジット創出は、GX-ETSを背景にJ-クレジットへの集中が著しい。グローバル水準のCDR組成にまで裾野を広げられるかは、検証にかかる負荷をどこまで下げられるかに左右される。AIを用いた認証がその障壁を引き下げるなら、創出側の選択肢を広げる鍵となる。
参考:https://www.linkedin.com/posts/eamonjubbawy_isometric-has-raised-40-million-in-series-activity-7474755674812559360-glVL