米農務省(USDA)は6月25日、再生型農業で生産されたバイオ燃料原料の炭素強度(CI)算定を定める最終規則を公表した。同日にはトランプ米大統領が再生型農業を推進する大統領令に署名している。規則は6月29日に連邦官報に掲載される。
ブルック・ロリンズ農務長官(Brooke Rollins)は、義務化ではなく市場機会の創出だと位置づけ、再生型実践を選んだ農家が高い価格や投入コストの低減、土壌の健全性向上を得られると述べた。
最終規則「再生型農業バイオ燃料原料の生産に関する技術ガイドライン」は、トウモロコシ、大豆、ソルガム、春まきナタネの4品目を対象とする。圃場単位でCIを定量化し、マスバランス方式による流通過程の追跡と記録、監査・検証の手続き、対象作物ごとの再生型農業実践基準を規定する。
算定には更新版のUSDA FD-CIC(原料CI計算機)を用い、耕起の強度は新たに整備されたT-DISC(土壌炭素向け耕起撹乱指標)で評価する。被覆作物の導入、養分管理の改善、不耕起・低耕起といった実践が、計算機上の数値として文書化される。
価値化の経路はカーボンクレジットの発行ではない。低CIと認証された原料をバイオ燃料生産者が調達し、生産者側が45Z(クリーン燃料生産税額控除)を取得する。その便益の一部が上乗せ価格として農家に還元される構図である。
つまり本規則は、45Zと再生可能燃料基準(RFS)が生んだ低炭素原料の需要に、供給側の算定根拠を与えるものと位置づけられる。
本規則は新規の枠組みではない。
2025年1月に公表された暫定最終規則「気候スマート・バイオ燃料原料」を最終化し、名称を「再生型農業」へ改めたものである。トランプ政権は今回の措置を、通年E15の全国展開や過去最高の再生可能燃料使用義務量、45Zの延長と並ぶ「アメリカ第一」「米国を再び健康に(MAHA)」の農業政策として提示した。気候という語は前面から退き、農家の収益性と農村経済、エネルギー自立が前面に置かれている。
基盤となるのは、2025年12月に開始した7億ドル(約1,132億円)の再生型パイロット事業である。同事業ではこれまでに6万7,000件超の農場保全計画が策定され、対象面積は4,900万エーカー(約1,980万ヘクタール)に及ぶ。
対象作物の生産規模は大きい。エタノール向けには年間約60億ブッシェルのトウモロコシが投入され、トウモロコシ農家の68%がすでに何らかの再生型実践を導入している。バイオ燃料向けの大豆は年間約18億ブッシェルで、こちらも70%の農家が同様の実践を採っているという。
裏を返せば、すでに広く普及した実践に対して、新たに算定と検証の層を被せるのが本規則の実態に近い。プレミアムが生じるのは、その算定が45Zの控除額に接続される限りにおいてである。
本件はカーボンクレジットの新市場ではなく、バイオ燃料サプライチェーン内のCI算定を45Zに接続するカーボンインセッティング型の枠組みとして位置づけられる。VCMの除去系カーボンクレジットとは評価の文脈が異なり、農業由来の炭素価値が独立した取引対象として立ち上がるわけではない。
注目すべきは、脱炭素の根拠が農業経済の言葉へ置き換えられた点である。2025年1月の暫定規則にあった「気候スマート」が消え、義務ではなく自主・市場主導という枠組みが強調された。CI算定の方法論と検証の厳格性が暫定規則からどこまで維持されるかが、本規則の脱炭素的な実質を左右する論点となる。