カーボンクレジットの創出・販売を手掛けるGreen Carbon株式会社は2026年4月21日、北海道を中心とする酪農家と連携し、J-クレジット制度の方法論「家畜排せつ物管理方法の変更(AG-002)」に基づいてCO2換算で6,749トンのJ-クレジットを創出したと発表した。
本プロジェクトの最大の特徴は、Green Carbonが2025年1月末にAG-002方法論として日本で初めて完了させたプログラム型のプロジェクト登録を活用している点にある。
通常型ではプロジェクト単位で個別申請が必要となるが、プログラム型では複数農家を一括で登録・申請できるため、申請業務の重複を排除し、北海道から全国への横展開を加速できる。今回の6,749トンは、認証対象期間約9カ月分の申請を一括処理した結果である。
AG-002方法論は、鶏・豚・牛の家畜排せつ物に強制発酵設備を導入することで発酵速度を上昇させ、発酵過程で発生するメタン(CH4)および一酸化二窒素(N2O)を削減し、その削減量を削減系のカーボンクレジットとして認証する仕組みである。
日本の畜産分野からは年間約1,500万トンの温室効果ガス(GHG)が排出されており、その約8割を乳用牛と肉用牛が占める。乳牛1頭あたりの年間排出量は約5トンに達し、肉牛の約2倍の規模となっている。
これまでAG-002方法論の活用が限定的だった最大の要因は、強制発酵設備の導入に伴う設備投資コストの高さにあった。現状、約6割の畜産・酪農農家は約半年をかけた堆積発酵で排せつ物を管理しており、強制発酵設備への切り替えには農家単独での投資負担が大きい。
Green Carbonはこの構造的課題に対し、強制発酵設備の導入費用の一部、ならびにJ-クレジットの登録・申請・認証費用を内包したプロジェクト出資型のスキームを構築。さらに、創出されたJ-クレジットの販売収益を連携農家に分配することで、農家側の追加投資負担を抑えつつ副収入化する設計を実現した。
連携体制も本プロジェクトの特徴である。
地方銀行を起点に、雪印メグミルク、北海道銀行、北洋銀行、酪農メガファーム、機器メーカーが一体となり、J-クレジットの創出から販売までを一気通貫で回す産業エコシステムが構築された。乳業大手・地域金融機関・酪農家・機器メーカー・カーボンクレジット創出事業者という異業種連携が、本スキームのスケーラビリティを担保している。なお、認証された6,749トンのJ-クレジットは今後販売される予定である。
連携農家にとってのメリットは、カーボンクレジット販売収益による副収入にとどまらない。強制発酵設備の導入により、従来約半年を要していた発酵管理工数が半減するほか、発酵効率化に伴い悪臭が抑制される。畜産・酪農農家における悪臭問題は近隣住民との社会的軋轢の主因となっており、大型農家では苦情発生率が10%を超えるケースもある。本プロジェクトの取り組みは、温室効果ガス削減という気候価値に加え、労働環境の改善・地域社会との関係改善といったコベネフィットを生み出している。
Green Carbonは本プロジェクトを起点に、2026年度に畜産・酪農由来のJ-クレジットで追加15,000トンの創出を計画。2030年には乳牛・肉牛・豚を含む畜産分野全体で年間20万トン規模のカーボンクレジット創出を目標に掲げ、北海道から東北・全国への展開を加速させる方針である。
日本国内の畜産分野はこれまで、農業由来GHGの主要排出源でありながら、削減手段が乏しい「ハード・トゥ・アベイト」セクターとして位置付けられてきた。今回のAG-002プログラム型登録の成立は、追加性・永続性・コベネフィットの三拍子が揃った国内由来カーボンクレジットの本格供給ラインが立ち上がったことを意味する。
特に、GX-ETSの本格稼働に伴って国内オフセット需要が拡大する局面では、自然由来かつ国産・トレーサビリティが担保された削減系カーボンクレジットへのニーズが高まる。雪印メグミルクをはじめとする乳業大手にとっては、Scope3排出量削減や調達側サプライチェーン脱炭素戦略におけるカーボンインセッティングの具体的選択肢として、本スキームを評価する価値がある。
また、地方銀行を起点に構築されたエコシステムは、気候変動対応とトランジションファイナンスを地域経済の枠組みで束ねるモデルとして注目に値する。今後はJ-クレジットの販売価格動向と農家への収益分配設計が、全国展開のスケーラビリティと持続可能性を左右する論点となる。