排出量取引制度(Emissions Trading Scheme, ETS)は、気候変動対策の根幹をなす経済的手法である。
これは、政府が産業界全体の温室効果ガス(GHG)排出量に上限(キャップ)を設定し、その範囲内で企業間が排出する権利(排出枠)を売買(トレード)する仕組みであり、「キャップ・アンド・トレード」と呼ばれる。
排出量取引制度(ETS)とは、温室効果ガス排出量に「総量の上限」を設け、その上限内で排出する権利を市場で売買させることで、社会全体として最も経済的に効率よく排出削減を促す制度である。
ETSは、カーボンプライシング(炭素への価格付け)の代表的な手法の一つである。
政府がGHG排出に対して直接税金を課す「炭素税」とは異なり、市場メカニズムを通じて炭素の価格が決定される点が最大の特徴である。企業は、自社で削減努力をするコストと、市場で排出枠を購入するコストを比較し、より安価な方を選択できる。
ETSの重要性は、環境目標の達成を確実なものにしながら、経済への影響を最小限に抑える「柔軟性」と「効率性」にある。
政府は、科学的知見に基づき、社会全体のGHG排出許容総額(キャップ)を年々厳しくなるように設定する。この予算を使うための「許可証(排出枠)」が各企業に割り当てられる。
ETSの運用は、「キャップ(上限設定)」「アロケーション(排出枠の配分)」「取引(市場)*の3つの要素で構成される。
政府が、制度の対象となる産業(電力、鉄鋼、セメントなど)全体に対し、年間のGHG排出許容総量を設定する。このキャップは、国の削減目標と整合性を取る形で、段階的に引き下げられる。
設定されたキャップの範囲内で、対象となる各企業に排出枠を配分する。
企業は、割り当てられた排出枠の過不足に応じて、専用の市場で自由に売買する。排出枠の価格は、需要と供給のバランスによって常に変動する。
EU-ETSは、世界で最も歴史が長く、最大規模のETSである。2005年に導入され、EU域内の発電所や大規模工場などを対象とし、EU全体の排出量の約4割をカバーする。
オークションによる歳入は、再生可能エネルギー導入や低所得者層のエネルギー移行を支援する基金などに充当され、公正な移行を資金面で支えている。
ETSは強力な政策ツールであるが、その制度設計には細心の注意が求められる。
排出量取引制度(ETS)は、気候変動という市場の外部不経済を内部化し、経済成長と脱炭素を両立させるための、現時点で最も有力な政策手段の一つである。
排出量取引制度は、今後、国家間の連携が進むことで、より広域で効率的な炭素市場が形成され、世界全体の排出削減が加速することが期待される。