トランプ政権、緊急権限で石炭産業に約7億ドルの連邦支援

カーボンクレジット.jp 編集部

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米トランプ政権は2026年6月4日、緊急権限を用いて石炭産業に約7億ドル(約1,120億円)を投じる連邦支援策を発表した。冷戦期に制定された国防生産法(Defense Production Act、DPA)を発動し、既存の石炭火力発電所の延命、新規発電所の建設、輸出インフラの拡充に資金を充てる。

エネルギー省は同日、石炭火力17基と輸出施設1件への追加支援を表明し、これまでの取り組みと合わせて累計45基・40GW超を維持・支援したとしている。

支援策の概要

報道で約7億ドル規模とされる本支援策について、エネルギー省は複数の枠に分けて内訳を示している。

発電所の再稼働・近代化を担う「Restoring Reliability」枠では、4件の事業に最大3.5億ドル(約560億円)を配分する。対象には、アラスカ州アンカレッジの1.25GWおよびウェスト・バージニア州の1.6GWの新設計画、2024年に閉鎖されたメリーランド州カンバーランドのAESウォリアー・ラン発電所(AES Warrior Run、205MW)の再稼働、プエルトリコ・グアヤマのAESプエルトリコ(510MW)の改修が含まれる。

DPAに基づく5億ドル(約800億円)の枠では、4.25億ドル(約680億円)を10州にまたがる石炭火力13基(14GW超)の維持に、7,500万ドル(約120億円)をカリフォルニア州オークランドのウェスト・ゲートウェイ・ターミナル(West Gateway Terminal)の建設に充てる。同ターミナルはアジア向けの石炭輸出能力を拡大する。別途、既存施設の改修6件には1.75億ドル(約280億円)が充てられている。

エネルギー省は、これらの取り組みにより新規電源建設費を約500億ドル(約8兆円)回避し、約17億ドル(約2,720億円)の民間投資を誘発するとしており、石炭鉱山42カ所が稼働を継続する見込みだとする。アラスカとウェスト・バージニアの新設は、米国で2013年以来初の石炭火力建設とされる。ホワイトハウスは、石炭・建設・鉄道・港湾の各分野で1万4,000人超の雇用を創出・維持すると見込む。

一方で、「クリーンコール(beautiful, clean coal)」と銘打たれた本支援策の対象事業は、効率改善・寿命延長・新設・再稼働が中心であり、炭素回収・貯留(CCS)への言及はない。

発動の背景

政権は、データセンターやAIインフラ、電気自動車の普及による国内電力需要の急増に対応するための措置だと説明する。クリス・ライト(Chris Wright)エネルギー長官は、老朽化した石炭資産を稼働し続けることで需要家を送電網の障害から守り、大規模な冬季停電を防いできたと述べた。

エネルギー省によれば、2025年には石炭火力の早期閉鎖を防ぐことで17GW超の発電能力を維持し、2025年1月以降に緊急命令で6基の閉鎖を回避したという。

経済性と環境への懸念

支援策には、環境保護団体やエネルギー経済の専門家から即座に反発が出ている。天然資源防衛協議会(Natural Resources Defense Council、NRDC)は、米国の石炭火力の99%がすでに新規の風力・太陽光より運転コストが高いと指摘する。

エバーグリーン・アクション(Evergreen Action)は、今回の救済を「すでに沈んだ船に救命具を投げるようなもの」と批判し、電気料金の上昇と地域の大気汚染を招くと警告した。

編集部の視点

本件は、気候変動対策そのものの放棄というより、データセンターやAIに起因する電力需要の急増という足元の供給力確保を優先した選択と読み取れる。気候変動の存在を否定する立場というより、短期の経済・エネルギー安全保障上の便益が、脱炭素の優先順位を上回った構図である。

だからこそ、化石燃料の稼働継続を前提とするならば、CCSの位置づけは政策的にも気候科学的にも一段と重みを増す。「クリーン」を掲げた今回の支援に回収・貯留が組み込まれなかったことは、その空白をかえって際立たせている。

参考:https://www.energy.gov/articles/fact-sheet-energy-department-unleashing-beautiful-clean-coal