米イリノイ州法案、CO2パイプラインへの土地収用権適用禁止を提起

カーボンクレジット.jp 編集部

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米イリノイ州議会で、CO2パイプライン事業者から土地収用権を剥奪する超党派法案「SB2842」が審議されている。可決されれば、事業者はCO2輸送インフラの用地を地権者との任意交渉のみで確保せざるを得なくなり、米国におけるCCSインフラ拡大の前提条件が一変する。

法案の骨子

マイク・ハルピン州上院議員(Mike Halpin)が提出したSB2842は、二つの州法を改正する。公益事業法を改め、イリノイ州商業委員会(Illinois Commerce Commission、ICC)の認証を受けたCO2パイプライン事業者に対し、収用権の取得・行使を明示的に禁止する。あわせてCO2輸送・貯留法を改正し、認可証の取得が用地取得を強制する権限を伴わないことを定める。

結果として、事業者は地権者と直接交渉し、任意の地役権設定によってルートを確保する以外の手段を失う。

超党派の支持基盤

法案は与野党双方から支持を集めており、共同提案者にはスティーブ・マクルーア(Steve McClure)も名を連ねる。現時点での共同提案者は23名にのぼる。支持基盤には、イリノイ州農業局(Illinois Farm Bureau)、シエラクラブ(Sierra Club)、イリノイ環境協議会(Illinois Environmental Council)、イリノイ大豆協会(Illinois Soybean Association)といった性格の異なる団体が並ぶ。

背景には、2024年に成立したSafe CCS法が貯留事業を規制対象とした一方で、パイプラインルートの収用権については手当てを欠いたという経緯がある。SB2842は、この制度的空白を埋める位置づけとされる。

プロジェクト経済性への影響

収用権の剥奪は、事業者の用地取得コストと時間軸に直接作用する。任意交渉に一本化されれば、一部の地権者の不同意がルート全体を停滞させる構図となる。これまで頓挫したナビゲーター社(Navigator)のHeartland Greenway案件や、計画中のウルフ・カーボン・ソリューションズ(Wolf Carbon Solutions)のパイプラインが直面してきた地元の反発が、制度上さらに重みを増すことになる。

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45Q税額控除を前提に組み立てられてきた米国のCCS事業の採算と工期は、用地確保の不確実性という変数を新たに織り込む必要に迫られる。

安全性と社会的受容性

推進派・反対派の双方が争点に据えるのが安全性である。法案の支持者は、CO2が高濃度では窒息性を持つ点を挙げ、収用権がなければ事業者は学校や住宅、地域社会への近接を避けてルートを設定せざるを得なくなり、結果として任意の用地合意を得やすい配置へ誘導されると主張する。

土地収用をめぐる対立は、農地の排水設備の損傷や収量低下、世代を超えて継承される土地の保全といった、地権者にとって具体的な利害に根ざしている。脱炭素インフラの整備が、技術や資金ではなく社会的受容性の確保によって律されうる構図を、本件は浮き彫りにしている。

編集部の視点

本件は、収用権という一点が米国CCSインフラの拡大速度を左右する論点として浮上したことを示している。

任意交渉への一本化は、ルート設定と用地取得に要する時間とコストを押し上げ、45Qを軸に組み立てられてきたプロジェクトの経済性に直接作用する。複数の大型案件が地元の反対で頓挫してきた経緯を踏まえれば、収用権の有無は単なる手続き論ではなく、事業の実装可能性そのものを規定する変数といえる。

ただし、現時点では一州の立法にとどまり、既存の反対運動の延長線上に位置づく性格も併せ持つ。会期内の成立可否は不透明であり、影響範囲が個別ルートの問題に収斂する余地も残る。

それでも、CO2輸送インフラの整備可否が社会的受容性の確保に左右されるという構図は、米国のCCS展開全体に通底する論点として位置づけられる。

参考:https://ilga.gov/Legislation/BillStatus?GAID=18&DocNum=2842&DocTypeID=SB&LegId=165044&SessionID=114