ブラジル開発銀行(BNDES)と環境・気候変動省(MMA)は2026年6月10日、気候基金(Fundo Clima)を通じて在来植生の回復に取り組む5事業へ総額8億3,400万レアル(約264億円)の融資を承認したと発表した。5事業の総投資額は27億レアル(約853億円)に上る。
発表は世界環境デーに合わせた式典で行われ、ルラ大統領(Luiz Inácio Lula da Silva)やカポビアンコ環境・気候変動相(João Paulo Capobianco)が出席した。対象事業は劣化地の回復を通じ、大気からの炭素除去と生物多様性保全をブラジルのNDC達成に結びつける狙いを持つ。
最大の融資先はBTGパクチュアルTIG(BTG Pactual TIG)で、2億レアル(約63億円)の融資に対し総投資額は16億レアル(約506億円)を見込む。次いでRRG(RRG Soluções Baseadas na Natureza)に2億5,000万レアル(約79億円)、システミカ(Systemica)に1億8,000万レアル(約57億円、総投資額3億4,000万レアル=約107億円)、カレイジャス・ランド(Courageous Land)に1億1,600万レアル(約37億円)、ビオマス(Biomas)に8,720万レアル(約28億円、総投資額2億5,700万レアル=約81億円)が承認された。
RRGはバイーア州の劣化地2,500ヘクタールで持続可能なカカオ生産を手がける。
業界分析によれば、5事業はマットグロッソ・ド・スル、パラ、バイーア、ロライマの各州に分布し、合計で6万5,600ヘクタール超の回復と在来種1億800万本超の植栽、約2万7,000人の雇用創出を見込む。除去量ではカレイジャス・ランドが約100万トン、ビオマスが約50万トンのCO2を計画する。これらはブラジルがパリ協定下のNDCで掲げる2030年までの1,200万ヘクタール回復目標に資する。
気候基金はBNDESが運用し、MMAが統括する。現政権下で予算規模は大きく拡大しており、2023年の6億3,400万レアル(約200億円)から2024年に104億レアル(約3,286億円)、2025年に140億レアル(約4,424億円)、2026年には275億レアル(約8,690億円)へと膨らんだ。従来の年平均はおおむね4億レアル(約126億円)程度だった。
森林の回復・保全は支援分野のなかで存在感を高めている。2025年には森林事業向けに39億レアル(約1,232億円)が承認され、前年の17位から融資額第2位のセグメントへと浮上した。
本件で注目されるのは、譲許的な公的融資が除去系カーボンクレジットの供給基盤に与える影響である。
業界分析では、これら森林再生・アグロフォレストリー事業は高インテグリティの除去系カーボンクレジットを生み出し、ボランタリーカーボンクレジット市場の供給を補強する設計とされる。開発銀行による低利・長期の融資は初期資本コストを圧縮し、ARR系事業のバンカビリティを高める。これは中長期的なブラジル産除去系カーボンクレジットの供給増と、価格形成への下押し圧力につながりうる。
一方で、公的補助を受けた事業の追加性をどう評価するかは、クレジット品質をめぐる論点として残る。
なお、MMAの公式発表は炭素除去とNbSによるNDC達成への寄与を前面に置き、カーボンクレジット化を明示していない。クレジット創出を企図とする位置づけや、原資にアマゾン基金を含むとする整理は業界分析による解釈である。
本件は、ブラジルが公的資金を梃子に除去系カーボンクレジットの供給基盤を国家規模で整備しつつある流れの一環として位置づけられる。
譲許的融資による初期資本コストの圧縮は事業のバンカビリティを高め、ブラジル産除去系カーボンクレジットの供給拡大と中長期の価格形成に作用しうる。公的資金が市場発の供給を補完する構図は、除去系カーボンクレジットの調達源を分散させたい買い手にとって、供給基盤の厚みを測る材料となる。
関連記事:ブラジル、熱帯林保全基金「TFFF」創設へ COP30で正式発足予定