アメリカン航空(American Airlines)とグーグル(Google)は、持続可能な航空燃料の環境価値証書(SAFc)に関する契約を締結したと発表した。航空会社と単一の法人顧客の間で公表されたものとしては過去最大規模の SAFc 契約とされる。
契約は3年間で3,500万ガロン(1億3,200万リットル)の持続可能な航空燃料(SAF)を対象とし、約30万トンのCO2e削減に相当する。
アメリカン航空はシカゴ・オヘア国際空港(ORD)で既存インフラを通じて廃食用油など廃棄物由来の SAF を物理的に購入・消費し、グーグルは SAFc レジストリのブックアンドクレーム方式(book-and-claim)を通じて環境価値を取得して従業員出張に伴う排出に充当する。
本契約の核心は、燃料の物理的消費とその環境価値の請求を分離するブックアンドクレーム方式にある。物理供給が地理的に制約される SAF において、需要側と供給側の地理的一致を求めずに法人需要を顕在化させる仕組みである。
アメリカン航空は、この長期契約を前提にバレロ・マーケティング・アンド・サプライ(Valero Marketing and Supply Company)との新規 SAF オフテイク契約を確保した。長期の需要確約が供給側の調達を可能にし、生産投資を呼び込むという循環が想定されている。
両社はこの契約を、燃料生産者と投資家に対する需要シグナルと位置づけ、SAF の展開加速を狙うとしている。
一方で、SAF は生産量が依然として限定的で化石燃料比のコスト差も大きく、単一の法人契約による需要シグナルが供給制約とコスト差の解消に直結するかは見通せないとの指摘もある。
本契約の成立は、イリノイ州が導入した SAF 税額控除に大きく依存している。同制度が州内への SAF 供給を呼び込み、シカゴの航空拠点としての地位を補強したと位置づけられている。
裏を返せば、契約を成立させたコスト構造は税制優遇という政策的前提の上に成り立っている。
【編集部の視点】
本契約は、企業間 SAF 調達における需要創出モデルの転換点として位置づけられる。
ブックアンドクレーム方式による帰属の分離は、物理供給に地理的制約を抱える SAF でも法人需要を可視化し、長期オフテイクから生産投資へとつながる循環を駆動する設計である。航空という排出削減困難セクターにおいて、需要側が先行して市場形成を主導する構図を具体化した点に構造的な意義がある。
ただし、その成立条件は州税額控除という政策的前提に依存する。補助金がコスト差を埋める構造に立脚する以上、同種スキームの再現性は制度の継続性に制約される。
税制優遇の薄い市場へ同様の需要創出スキームを拡張できるかどうかが、ブックアンドクレーム型モデルの実効性を左右する。